第16章 私が守るべきもの
そう尋ねた善逸の声は、いつもの聞きなれたそれとは全く違う雰囲気を有しており、パッと聞いただけでは、善逸の物とは思えないほどだった。
「ははっお前には…「雷の呼吸の継承権持った奴が何で鬼になった…っ…アンタが鬼になったせいでじぃちゃんは腹切って死んだ!!!」……てめぇごときが、俺様の言葉を遮んじゃねぇよ!!!」
抑えていた感情が爆発した善逸と、言葉を遮られたことに腹を立てた獪岳が、互いに怒鳴り合う。
「じいちゃんは1人で腹を切ったんだ!介錯もつけずに!」
善逸の目から、堪えきれない涙がボロボロと流れ始め、私の目の奥からも、それに釣られるように涙が込み上げてきた。
「腹を切った時誰かに首を落としてもらえなきゃ長い時間苦しんで死ぬことになる!じぃちゃんは自分で喉も心臓も突かず死んだ!雷の呼吸の使い手から鬼を出したからだぞ!!」
「…っ…アンタのせいで…どうしてじぃちゃんがそんなことしなきゃならないのよ!?あんなに大切に育ててもらって…どう言うつもりなのよ!!!」
私と善逸の言葉を聞いた獪岳は、ニヤリと下衆な笑みを浮かべた。そして
「知ったことじゃねぇよ!だから何だ?悲しめ?悔い改めろってか?俺は俺を評価しない奴なんぞ相手にしない!俺は常に!!どんな時も!!正しく俺を評価するものにつく!!」
"自分は何も間違ったことはしていない"
そう言わんばかりの表情で、そんな事を言ってのけた。
「……は?」
私はこの時、自分がこんなにも低く、冷たい声が出せる事を初めて知った。
自分の中にある憎しみを全て込め、ジッと獪岳を睨みつけるも、全く動じないどころか鼻で笑われてしまう。
「じじぃが苦しんで死んだなら清々するぜ!あれだけ俺が尽くしてやったのに俺を後継にせず、テメェみたいなカスと共同で後継だと抜かしやがったクソじじぃだ!元柱だろうが耄碌したじじぃに用はないからな!ハハハハ!」
そんな獪岳の言葉を耳にした直後
……ブチッ
と、頭の中で何かが切れる音が聴こえた気がした。