第16章 私が守るべきもの
「私が善逸にクナイ刺すようなヘマするわけないでしょ?」
「わかってるけどわかってるけど、次はもっと早く言ってぇぇぇえ!」
鬼が数多にいる場所に放り込まれたこの状況は、決していい状況とは言えないはずなのに、じぃちゃんの元で共に修行を積んだ善逸との戦いは、どこか楽しさのようなものを覚えた。
それでも、気がかりなことがひとつ。
……あそこにいた私と善逸が連れてこられたという事は……きっと杏寿郎さんもここに…
現役を退いたとは言え杏寿郎さんは私よりもはるかに強い。けれども杏寿郎さんは、ほかの柱や隊士たちとは違い、秘薬を飲むことが出来ず、その持ち前の強さのみで戦い続けることを強いられる(杏寿郎さんに限って”身を隠してやり過ごす”などと言う選択肢はありはしない)。
もし、私のように誰かと一緒でなく、一人きりだとしたら。その身が危険に晒される可能性は非常に高い。
……っ…だめだめ…そんなことを考えて不安になっている余裕があるのなら…少しでも早く前に進まないと……大丈夫…杏寿郎さんは蝶屋敷にいるって言っていたし…しのぶさんと一緒にいるはず…
湧き上がってくる不安をグッと抑え、私は気配を探ることに集中した。
その時。
善逸の足がぴたりと止まり、私も同じように足を止めた。
理由はひとつ。
……この気配……前とは質が違うけど…根本は一緒……これは絶対に……あいつの気配だ
瞑っていた目を開き、善逸の方へと向ける。するとつい先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かな善逸と視線が合った。
「…姉ちゃん」
善逸の言いたいことは、その一言でなんとなく察しがついた。
「……なぁに?」
瞳の奥に、激しい雷を宿った善逸が私を真っすぐと見据え
「あいつの頸は必ず俺が斬り落とす。姉ちゃんの分んも、じぃちゃんの仇は俺が必ず取る。だから絶対に手出しはしないで欲しい」
そう言った。
”私があいつの頸を斬りたい”
そう思う気持ちがなかったわけじゃない。それでも
「…わかった。約束する」
最愛の弟弟子の頼みとあらば、私の事を誰よりも理解してくれる善逸の頼みとあらば
「……頼んだよ…善逸」
私はその気持ちを、グッと喉の奥へと飲み込もう。