第16章 私が守るべきもの
「俺が絶対、姉ちゃんとその子を守る。だから何もしないで……て、言えればいいんだけど、この状況では言えないから…俺が姉ちゃんとその子を守れるように…俺を助けてよ」
強い意志の籠った瞳にじっと見つめられ
「………わかった…」
私は、そう答えることしか出来なかった。
現れた鬼を善逸が斬り、そんな善逸の戦いを、音と気配を探り、響の呼吸で補助しながら突き進む。
進んでいる道が正しいのか正しくないのか。この先に何か有るのか無いのか。不確かなことしかない状況でも、善逸と二人ならば(それから和とチュン太郎も)、なんとか進むことが出来た。
善逸は私に
”姉ちゃんは走っちゃだめ!”
なんてことを言ってきたが、この状況下で走らないことなど出来るはずもなく
”私が足音立てずに走れるの知ってるでしょ?足音が立たないってことは、それだけ身体に感じる衝撃とか負担も軽いの!無理はしないように気を付ける。だから早く進んで、味方と合流しよう”
と説得し、しぶしぶ走ることを許可された。
「…次…来るよ!」
「あぁもう少しは休ませてよねっ!!どんどんどんどん湧いて出てきてうっざいんですけどぉぉぉぉお!!!」
ここ最近、感覚が過敏になり眠りが浅かった理由も、何度やってもうまく立ち回れなくなっていた理由も、ようやくわかった。
感覚は腹に宿った子を守るため。身体は腹に宿った子を育てるため。自然と変化を迎えていたのだろう。
……人間の本能って…凄いんだな
そんなことを頭の片隅で考えながら
「…っ…善逸!!!」
善逸の顔へと真っ直ぐに向かって行く鬼の腕に、クナイを投げる。クナイは見事にその腕を捕え、善逸へと向かう腕の軌道を変えた。
「ぎぃやぁぁぁぁ!今俺の顔の横をクナイがかすめたんですけどぉ!?当たりそうだったんですけどぉ!?」
鬼の頸を斬り終えた善逸が、ものすごい形相で後ろにいる私の方へと振り返って来た。