第16章 私が守るべきもの
そうして黙ったまま隣り合って座っていると、いつの間にか陽が半分ほど沈んでいた。
……そろそろ…戻らないと…流石に杏寿郎さんが心配してそうだな
そう思った私はどこを見るでもなく正面に向けていた視線を善逸の方へと向けた。
すると
「……何?…何か私の顔に…ついてる?」
善逸が私の顔を、目をまん丸にしながら見ていた。
善逸は、私が首を傾げながそう尋ねるとハッと我に返った様に肩を大きく揺らし、その後
ガシッ
と、私の両肩を掴んできた。
「…何?どうしたの?善逸ちょっと…怖いよ?」
「……気のせいかと思ったけど、やっぱり気のせいなんかじゃない」
意味ありげに、意味のわからない事を言ってくる善逸に若干の苛立ちを感じ
「気のせいじゃないって…何が?意味がわからないんだけど…はっきり言ってくれない?」
私は少し棘のある言い方で善逸にそう尋ねた。
すると善逸は視線を左右に泳がせた後、ゴクリ大きく唾を飲み込み
「鈴音姉ちゃんの身体の中から…今までしなかった音がするんだ」
私の目を、恐る恐る見つめながらそんな事を言ってきた。
「………違う音?…違う音って…何?」
私は、善逸が何を言いたいのかいまいちわからず、眉間に軽く皺を寄せながらそう聞き返す。
善逸は私の左肩に置いていた右手を離し
「…………その辺りから…姉ちゃんの心音とは違う…その倍くらいの速さのが聞こえる……ここまで言えば…意味……わかるよね?」
三角座りをしている私の下腹部辺りを指差しながらそう言った。
私の下腹部辺りから聞こえる
私のものじゃない心音
善逸の言いたいことをようやく理解できた私は
「……っ…嘘……!」
目を大きく見開き、口を手で覆った。
思い当たる節は十分過ぎるほどある。
……あの時だ…
秘薬の影響でただただ杏寿郎さんが欲しくて、私は杏寿郎さんが私の中に精を放つ事を止めないどころか、自ら求める様に足を絡めた。
どうしよう
なんで今
まさかそんな
そんな言葉が頭をぐるぐるぐるぐると回っているだけで、思考が全く定まらない。