第16章 私が守るべきもの
善逸の話では、善逸がじぃちゃんの死を知らされたのは、丁度岩柱様のところで柱稽古を受けている最中だったそうだ。
そして善逸が話してくれたことは、大方は杏寿郎さん宛に書かれた手紙の内容と一致しており、文で知らされた内容の事細かな部分を確認するようなものだった。
けれども一つ。
じぃちゃんは介錯もつけず
長い時間苦しみ
たった1人で死んだ
という事実に
「……っ…そんな……」
悔しくて
苦しくて
悲しくて
獪岳を八つ裂きにしないと気が済まない
そう思ってしまうほど強い怒りの感情を、獪岳に対して抱いた。けれども、それ以上に
……善逸…すごく淡々と話してるけど……きっと心の中は…私と同じようにどうにも出来ない感情でいっぱいなんだろうな…
涙も流さず、一点をじっと見つめながら、いつもの騒がしさが嘘のように静かに語り続ける善逸の様子が、どうしようもなく心配になった。
私は、善逸の顔を覗き込み
「……さっき…泣くのは全部済んでからって言ってたけど……本当に、大丈夫…?」
思わずそう尋ねてしまう。
すると善逸は、一点を見つめていた視線を私へと移し
「大丈夫。俺今、自分でも信じられないくらい頭が冴えてるから。それに、じぃちゃんに、姉ちゃんのこと頼むって言われてるし」
焦茶色の瞳で私のそれをじっと見てきた。
その表情がとてつもなく頼もしく見えると同時に
「……もう…じぃちゃんも善逸も……私の方が歳上で、姉弟子なんだよ?それじゃあ完全に、立場が逆じゃん…」
"善逸とじぃちゃんに大切に思われていたんだ"と言うことを改めて実感し、嬉しくてたまらなかった。
「歳上とか姉弟子とか関係ない。姉ちゃんは女の子だから。何かあったら俺が守るのは当然のことでしょ」
「……そっか…ありがとう、善逸」
そう言いながら私が微笑みかけると、善逸は今日初めての笑顔を私に向けてくれたのだった。