第16章 私が守るべきもの
「……相手は煉獄さん…だよね…?」
善逸のその問いに対し
「……っ…」
私は、肯定も否定も、どちらもすることが出来ず、息をつまらせる。
けれども、口に出さなくとも、善逸には私の答えなどお見通しで
「…っ鈴音姉ちゃん自身が気が付いてなかったってことは、煉獄さんも知らないってことでしょ!?今すぐ煉獄さんのところに行って、言わないと!」
善逸は慌てた口調でそう言いながら、私の肩に置いていた手を離し、今度は両手首を掴んでグッと立ち上がらせた。
私は、そんな善逸の手をバッと振り払い
「…っ…駄目!杏寿郎さんには…言わないで…!」
自分の身体をギュッと抱きしめるようにしながらそう言った。
すると
「…は!?言わないでって…なんでよ!?こんな大事なこと…煉獄さんに言わないでどうするつもり!?」
善逸は、珍しく口調を荒げ、私を責めるようにそう言った。
「……だって…私も…私自身も…まだ全然…実感…湧かなくて…っ……これから最後の戦いが始まるし…だから…みんなと頑張らなきゃならないのに…こんな時に……」
"お腹に杏寿郎さんとの子がいる"
もしそれを杏寿郎さんに知られてしまえば、私はきっと最後の戦いに参加できないどころか、間違いなく隊士をやめるように言われてしまう。
大好きな杏寿郎さんとの子がお腹に宿ったことが嫌なわけでもなければ、嬉しくないわけでもない。けれども
"いつかその時が来たら"
と、思っていた未来が
"みんなと最後の戦いを迎える今"
となってしまえば、手放しで喜ぶことは出来ない。
雛鶴さんまきをさん須磨さんとの約束を後回しにしてくれた天元さん。秘薬の合同稽古で、私に時間を割いてくれた柱の方達。
その誰にも、向けられる顔がない。
なによりも、杏寿郎さんとの子が出来たことを、心から喜ぶことが出来ない状態で
……杏寿郎さんに…っ…なんて言ったら…
杏寿郎さんと顔を合わせることも、ましてや、子ができた事を伝えることも、怖かった。