第16章 私が守るべきもの
「…っ…!」
善逸は、一瞬声を詰まらせたものの
「…俺は…いい……泣くのは…全部済ませてからにするって…決めてるから」
私に抱きつく腕の力を強め、まるで自分自身に言い聞かせているような口ぶりでそう言った。
「……そっか……善逸は…強いね……っ…私は……だめだめだぁ……」
善逸に泣いてもいいんだと言いつつ、結局また、自分が泣いてしまい、背中を叩いてあげていたはずの手は、じぃちゃんと色違いの善逸の羽織をギュッと握りしめていた。
「……取り敢えず、道の真ん中でこうしてるのも微妙じゃない?折角だし、待ち合わせの場所まで行こうよ!ね?」
いつもは私が泣いている善逸を励まし、引っ張っていたはずなのに。今日はすっかりとその立場は逆転しており、年下の弟弟子に引っ張ってもらっている状態だ。
「……うん」
お互いに、お互いを抱いている腕を離し
「ほら、行くよ」
杏寿郎さんと比べると、随分と小さな善逸の手に引かれ、ゆっくりと歩き始めた。
10歩ほど歩き進めたのだが、善逸がフッと立ち止まり
「……ん?」
不思議そうに首を傾げながら、こちらに振り返って来た。
「……何?…どうか…した?」
鼻声気味に私がそう尋ねるも
「……いや。…何でもない…」
何でもないと言いつつ"…いやいやそんなわけないし…気のせい…絶対に、俺の気のせい…"と、ぶつくさと言いながら再び前を向き、歩き始めた。
私は、善逸の黄色い後頭部をじっと見つめ
……変な善逸…
なんて事を考えながら、その手に引かれて再び歩き始めた。
道から少し外れたところにどっしりと根を生やす大きな木の前まで来た私と善逸は
「俺が煉獄さんに送った文は…読んだんだよね…?」
「……うん。…でも……ちゃんと…善逸の口から…善逸の知ってる事を…聞かせて欲しい…」
「…わかってる。俺も、そのつもりで鈴音姉ちゃんを呼んだんだ」
太い幹に背を預けて座り、話しを始めた。