第16章 私が守るべきもの
「それじゃあまた」
「あぁ!俺は蝶屋敷で待たせてもらうか、どこかで鍛錬でもしていよう」
「善逸との話が終わって、もし杏寿郎さんが蝶屋敷にいなかったら、和を飛ばしますね」
「そうしてくれ」
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昨晩夕餉を食べ終えた私と杏寿郎さんは、2人で一緒に片づけをし、湯あみをし(一緒に入りたいと言われたが断固拒否させてもらった)、同じ時に布団に潜り込んだ。
何もせず、ただ天井を見ているだけだと、どうしてもじぃちゃんの事を思い出してしまい、心が乱れ、全く眠れる気がしなかった。けれども、杏寿郎さんはどうやって察知しているのか全くわからなかったが、私が悲しみに飲まれそうになる度に
”もっとこっちに来なさい”
”手を出してごらん”
”相変わらず柔らかい髪だ”
身体をくつけ、手を握り、頭を撫でてくれた。
そうしていると段々と瞼が重くなり、いつのまにか眠りにつくことが出来た。
朝起きた時も、私の身体はしっかりと杏寿郎さんに抱き込まれており、半分寝ぼけながら杏寿郎さんの胸に埋まっていた顔をあげると
”…おはよう”
愛おし気に私を見つめる杏寿郎さんの隻眼と視線が合い、私の心は安らいだ。
2人で軽く朝稽古をし、朝食を食べ終えると、私は鈍ってしまった感覚を取り戻すために、大きなおにぎりを3つこさえ、杏寿郎さんが稽古を終える予定の3時まで山にこもって自主稽古をさせてもらうことにした。
けれども
……なんだろう…やっぱり……おかしい気がする
同じ動きをしても、前よりも体力の消耗が早く、速さを保つことが出来ない。それなのに
……感覚の方は…いつもより鋭くなってるんだよね
聴く耳はより聴こえ、気配を探ればより感じ取れるようになっていた。
……特別何かをしたわけじゃないのに…なんでだろう……必要以上に感覚が過敏になり過ぎて、ちょっと困ってるんだよなぁ
眠っていたとしても、そこで普段聞いている音と違う音を拾ってしまった際、何故か目が覚めるようになった。それに加え、寝泊まりさせてもらっている部屋の付近を誰かが通るだけで意識が浮上し、最終的には目が覚め、その後再び眠りにつけても"寝足りない"と感じることも少なくなかった。
そもそも、寝ている間に、無意識に聴いてしまっていること自体が異常だ。