第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「…一緒に来てくれるのはすごく嬉しいんですが…稽古はいいんですか?」
「あぁ。予め、明日は3時までしか稽古をつけてやれないと伝えてある。皆1度は俺の稽古を終えた者たちだからな。普段より1.2時間稽古の時間が少なくとも、問題あるまい。万が一足りない者がいれば、父上のもとにでも行ってもらうつもりだ。故に心配無用だ!」
杏寿郎さんの中では、善逸の文を読んだ時からこうすることを決めていたようで、私が口をはさむ余地はなかった。
「……わかりました。それじゃあ…お願いします」
「うむ」
「……」
……杏寿郎さんがいてくれて…本当に良かった…もしそうじゃなかったら…私は何もかも投げ出してに獪岳に復讐することしか考えられなくなっていたかもしれない……そんなの……じぃちゃんが喜ぶはずないもん…
獪岳の事は何があろうと許さない。その頸を斬り落とすだけじゃ気が済まない…と、思う程の気持ちはあった。
それでも、目の前にいる、この愛おしい人を悲しませるような事はしたくない…私は、そう思ってしまった。
……じぃちゃん…じいちゃんには、それがわかっていたの?だから私に…直接連絡が来ないようにしてくれたの……ねぇ…夢の中でもいいから…教えてよ
そんなことを考えながら杏寿郎さんの顔をぼんやり見つめていると
「どうかしたか?」
杏寿郎さんが、隻眼を優しく細めそう尋ねて来た。
「…杏寿郎さん」
「なんだ?」
「……私がもし…また道を踏み外しそうになったら…引っぱたいて引き戻してくれますか…?」
杏寿郎さんは私の投げかけた問いに対し優しい表情を浮かべたまま
「俺には出来ない」
そう答えた。
私はてっきり
”もちろん”
と、答えてくれると思っていた。けれども実際に返って来た答えは、私が望んでいた答えとは相反するもので
「…っ…」
思わず言葉に詰まる。
杏寿郎さんは、そんな私を、今度は真剣な表情で見据え
「鈴音には、誰よりも鈴音の気持ちを理解してくれる姉弟弟子がいるだろう?」
と、言った。