第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「……杏寿郎さん…」
「なんだ?」
「……もう一度…話をきちんと聞かせてもらえますか?」
杏寿郎さんは私の様子を確認するようにじっと見た後
「…わかった。では場所を移そう」
私の手をギュッと握り立ち上がった。
居間に場所を移した私と杏寿郎さんは、卓を挟んで向かい合い座った。
杏寿郎さんは事前に槇寿郎様に事情を話していたらしく、邸の中にはもう私と杏寿郎さん以外誰もいなくなっており、外から聞こえる風の音や虫の鳴き声しか聞こえない(稽古に来ていた隊士たちも、槇寿郎様が煉獄のお屋敷に連れて行ってくれたらしい)。
「今朝がた、我妻少年から俺宛にきた文がこれだ」
杏寿郎さんはそう言いながら卓の上に文を置き、それを私の方へとスッと移動させた。
私がそれに手をつけ
「…読んでもいいんですか?」
と尋ねると
「問題ない。我妻少年も、そのつもりで送ってきているはずだ」
杏寿郎さんはそう答え、湯飲みのお茶をごくりと一口飲んだ。
チュン太郎が運べるよう小さく畳まれた文をゆっくりと開き、綴られた文字に目を通していく。
そこには
じぃちゃんが腹を切って死んだこと
獪岳が鬼になったこと
もし私にじぃちゃんの死を伝えることがあれば
善逸の口から伝えてほしいと
じぃちゃんの遺書に記されていたこと
本当はもっと前に手紙が来ていたが
悲鳴嶼様の稽古をやり遂げてから伝えようと決めていた為
伝えることが遅くなってしまったこと
そして
”明日の午後4時、蝶屋敷の側にある大きな木の下で姉ちゃんが来るのを待ってる”
と書いてあった。
善逸が、一体どんな気持ちでこの文を書いたのか。想像してしまうと、折角落ち着いた感情が崩れてしまいそうでやめた。
「蝶屋敷に荷物を置いたままだろう?君が我妻少年と話している間、俺がそれを回収しに行こう」
そんな杏寿郎さんの言葉に、私は文へと向けていた視線を杏寿郎さんへと移す。