第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「…鈴音のせいではない。あの者が鬼になったのは、あの者の心の弱さ故。君も、そしてもちろん桑島殿も、何も悪くない」
杏寿郎さんは私に言い聞かせるよう、力強く、それでいて優しさを孕んだ声色でそう言った。
「……でも……っ…でも…」
「でもじゃない。君が理解できるまで何度でも言おう。君も桑島殿も、決して悪くない。悪いのはあの者で、”鬼”という悪しき存在。君のせいなどでは決してないんだ」
「……う…ふ…っ…」
「今は泣きたいだけ泣きなさい。鈴音が落ち着くまで、俺がずっとこうして側にいる」
「…………ごめっ…なさ…」
「謝るんじゃない。…ほら、俺の前で我慢などするな」
「…っ…う…ふぇ…」
「…そう。上手だ」
泣くことすら褒めてくれる杏寿郎さんの優しさと温かさに
「…っ……じぃちゃぁん…」
私は、ただただじぃちゃんを亡くした悲しみに暮れることが出来たのだった。
泣きすぎて、涙も流れなくなった頃には、既に陽が落ちきっていた。
すると
ぐぅぅぅぅ~
涙を流し続ける私をずっと抱きしめていてくれた杏寿郎さんの腹が、空腹を訴え主張し始めた。
「…よもやこのような時に腹の虫を鳴らしてしまうとは。自分の腹をこんなにも恨めしく思ったことはない」
”むぅ…”と唸る杏寿郎さんが可愛らしく、私の頬が自然と緩んだ。
「………お夕飯…作らなきゃですね」
力の抜けた声で私がそう言うと
「夕餉の支度は、父上と千寿郎が済ませてくれたはず!安心するといい!」
杏寿郎さんは私と相反する元気な声でそう言った。
「……それ…申し訳なさ過ぎて、むしろ安心出来ないんですけど…」
「そうか?」
私がもぞもぞと動き始めると、ずっと私を抱きしめてくれていた杏寿郎さんの腕の力がふっと緩んだ。
顔を上げ、杏寿郎さんのそれを見上げると、私を優しく見つめる夕日色の瞳と目が合った。
たったそれだけで、悲しみに染まった私の心に、温かい火が灯るような気がした。