第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
じぃちゃんが育てた雷の呼吸の使い手で
隊士としての志や誇り
育手や仲間との絆を捨て
鬼に落ちるような人間
そんな人間は
「……獪岳…!」
一人しか思いつかない。
私は未だかつて感じたことのない怒りの感情とともに、半ば跳ねるように立ち上がると、立てかけてあった日輪刀を取りに走った。
けれども
パシッ
「…っ…離してください!」
杏寿郎さんの大きな手が、私の手首をがっしりと掴み
「そうはいなかい」
それは叶わなかった。
ブンブンと腕を振り、その手を振り払おうとするも、杏寿郎さんの手はビクともしない。
「離して!!!」
「では聞こう。俺がこの手を離した後、君は刀を持ってどこへ行こうと言うんだ?」
「そんなの決まってるでしょう!?あいつの頸を取りに…じぃちゃんの仇を取りに行くの!!!」
「どこにいるかもわからない相手の頸をどう狩に行くと言うんだ。鈴音の気持ちもわかるが、今は少し落ち着くんだ」
落ち着いた表情を私に向け、正論を述べてくる杏寿郎さんに、私の怒りの感情が更に大きく膨らむ。
「…っ杏寿郎さんに何がわかるの!?!?じぃちゃんは…獪岳のせいで死んだ!!!あれだけ世話になって、あれだけ師としての愛情をくれていたじぃちゃんを…あいつは裏切った!!!……………っ…でも……」
”俺とこなかったこと、必ず後悔させてやるからな”
「……そうさせたのは………っ…きっと……私だ…」
獪岳があの日私に向け放った言葉が頭の中をぐるぐると周り、弾けて散った”怒り”の代わりに込み上げて来たのは
「…っ…ふ…じぃちゃ…じぃちゃぁぁん……」
心臓を握りつぶされそうなほどの”悲しみ”だった。
ボロボロと涙腺が壊れたように涙が頬をつたい始め、足に力も入らなくなってしまった私は、左手を杏寿郎さんに掴まれたままその場に座り込んだ。
杏寿郎さんはそんな私の前にさっと回り込み、私の前で膝立になると
ぎゅぅぅぅぅぅっ
と、私の頭を強く掻き抱いた。