第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
……杏寿郎さんの稽古…確かぶつかり稽古って言ってたよね…相撲好きの杏寿郎さんらしいし、下半身は相当鍛えられそうだけど……私にはちょっと向かないかな
そんなことを考えながら先ほど千寿郎君が棚に置いたヤカンを手に取り
「それじゃあ私も手伝うよ」
そう声を掛けたのだが
「っ駄目です!これは俺が言いつけられた仕事なので!鈴音さんも、胡蝶さんの手伝いで忙しくしていると、兄上から聞いております!手伝いはいいので、部屋でゆっくりしていてください」
と、千寿郎君にヤカンを取られてしまう。
「それに、今現在庭に転がっている隊士の方々は、半裸も同然の姿です!そんな場所に鈴音さんを行かせたと知られれば、俺が兄上に叱られてしまいます」
そう言いながら手早く追加の麦茶をヤカンに移し替えている千寿郎君は、なんだか生き生きとして見えた。
杏寿郎さんから聞いた話では、かつて千寿郎君は、煉獄家の二男であるにも関わらず剣の才がないと、自分の事を酷く卑下していたそうだ。
それでも杏寿郎さんの助言、それから今では文通友達とも言えるほど仲を深めた炭治郎君のお陰で
”自分は自分の道を見つけ進めばいい”
と考えられるようになったと言っていた。
そんな悩みを抱えていた千寿郎君が、一生懸命兄である杏寿郎さんの手伝いをしている姿を見ると、なんだか心が温かくなった気がした。
「…それもそうだね。わかった。杏寿郎さんの手伝いは、千寿郎君に任せるね!稽古はまだまだ続きそうなの?」
私がそう尋ねると、千寿郎君はヤカンに氷を入れながら”うぅん…”と唸り
「皆さんだいぶお疲れなので、今日はもうこれで終わりかもしれません」
そう答えた。
「…そっか。それじゃあやっぱり、部屋で大人しく待ってることにする。悪いんだけど、杏寿郎さんに私が戻って来てること、伝えてもらえるかな?」
時間が取れるのであれば、身体の調子を戻すため山に走り込みに行こうと思っていたのだが、千寿郎君の口ぶりからするとそれは無理そうだと思い至り、杏寿郎さんが稽古を終え部屋に来るのを待たせてもらうことにした。