第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
音も砂埃も立てずに着地する。当たり前のようにやっていたはずなのに、今それが出来ていない。
……最近…訓練できてなかったもん…きっと…そのせいだよね……しのぶさんには申し訳ないけど…杏寿郎さんとの話が済んだら天元さんのところに扱かれに行こう
私は、まるで自分に言い聞かせるように、そう結論づけた。
違和感から逃げるように裏口から邸に入り、草履を放るように脱ぎ、水道へと向かった。蛇口をひねり軽く手を洗い終えると、食器が置いてある棚へと向かう。
もしかしたら散らかっているかもしれないと思っていたそこも、千寿郎くんが毎日整理整頓してくれているのか、変わらず整ったままだった。
私はそこから使い慣れた自分の湯飲みを取り出し、水道の横に置いてある飲み水用の水瓶から1杯分のそれを入れ
ゴクゴクゴク
と一気に飲み干した。
乾いた喉と、落ち着かない心を鎮めてくれるような水の冷たさに
「……はぁ」
私は思わず、大きなため息を吐いてしまう。
その時
「…っ…鈴音さん…?」
背後から千寿郎君の声が聴こえ、水場に空になった湯飲みを置いた。そのままクルリと振り返り
「ただいまもどりました」
と、千寿郎君に帰宅の挨拶をする。
千寿郎君は、手に持っていた大きなヤカンを棚の上に置くと、私の方へと駆け寄ってきた。
「鈴音さんいつの間に戻られたんですか?俺、玄関の側にいたんですが、通らなかったですよね?」
「まだ稽古をしてるみたいだったから…邪魔したら悪いと思って裏口から入ったの……今は随分と静かになったみたいだね。もう稽古は終わったの?」
千寿郎君は、私のその問いに困ったような表情を浮かべ
「今は休憩中です。大多数の方、地面に転がってのびてしまっていまして…俺はここに、お茶を取りに来たんです」
先ほど棚に置いたヤカンの方にチラリと視線をやりながらそう言った。
千寿郎君の言葉に、先ほど聞こえてきた隊士たちの断末魔のような叫び声が、自然と思い出される。