第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
そのまま駆け足でお館様のお庭を通り、屋敷の外へと続く階段に向かおうとした。けれども
フッ
と自分に向けられる視線を感じ、立ち止まる。視線の感じた方へと顔を向けると
……あまね様…?
母屋の廊下から、こちらをじっと見ているあまね様の姿が視界に飛び込んできた。
あまね様は、私としのぶさんにと、何度か甘味を差し入れにいらしてくれた(珠世さんには紅茶を)。もちろん私もしのぶさんもお断りしたのだが、”では捨てなくてはなりませんね”と、あの綺麗なお顔で言われてしまったので、しのぶさんと一緒にありがたく食べさせてもらった。
その際の、差し入れにいらしてくれた時の雰囲気とは異なるその様子に、私の胸に不安が込み上げてくる。
あまね様は私へと会釈すると、その場を去って行ってしまった。
「………」
しばらくあまね様のいた場所を見ていた私だが
……急ごう…
スゥっと深く息を吸い込み、その場を駆け出した。
杏寿郎さんの邸が見えてくる頃には、もう日が傾き始めていた。
気持ちの整わないまま呼吸を使い、尚且つ休むことなく走り続けて来たせいか
…はぁ…はぁ…はぁ
ただ走っていただけにも関わらず、珍しく息切れし、呼吸もかなり乱れてしまっていた。
邸まで残り10メートルほどのところまで来ると
”まだまだ倒れるには早い!立つんだ!”
杏寿郎さんの元気な声と
”ひぃぃぃぃ!”
”ぎゃぁぁぁ!”
隊士たちの叫び声が聴こえてきた。
そんな様子から
…まだ稽古の最中なんだ…よし、裏から回って入ろう
私は屋敷の裏の方に続く脇道へと進行方向を変えた。
そのまま走り続け、邸を囲うように立っている竹垣をヒョイと飛び越えると
ザッ
と裏庭に着地した。
私は、その着地の感覚に猛烈な違和感を覚える。
……いつもと同じ動きをしているつもりなのに…音が鳴った…。しかも…砂埃まで…立ってる…
音を立てることも、砂埃を立ててしまうことも、最近はほぼなかったはず。