第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
私は、今度は珠世さんの言葉を否定することなく
「……ありがとう…ございます…」
ぼそりと、呟くような声ではあったがお礼を述べた。
”素直じゃない天邪鬼”
私は、そんな人間だったはず。そんな私を変えてくれたのは、他でもない杏寿郎さんで
……杏寿郎さん…柱稽古…頑張ってるかな
なんだか無性に会いたくなってしまった。
その時
「鈴音さん。今しがた、煉獄さんから私に、文が届きました」
先ほど外に出たばかりのしのぶさんが、右手に文を持ち、部屋の中へと戻って来た。
「…文…ですか?」
杏寿郎さんがしのぶさんに文を送ることは、特段おかしなことではない。けれども、文が来たことをわざわざ私に伝えてくる理由がいまいちわからず、私は首を傾げてしまう。
「鈴音さんと直接話したいことがあるとのことで、時間が空き次第、邸まで寄越して欲しいとのことでした。状況から考えて、何か急ぎの用なのでしょう。こちらはもう大丈夫なので、ことの次第によっては、そのまま煉獄さんの邸に戻っていただいてかまいません」
中途半端な状態でいなくなって本当に大丈夫なのか…と、思いはしたものの
「…わかりました。でももし、戻ってこれるようであれば…その時はまた来ます」
「はい」
やはり杏寿郎さんの話とやらも気になってしまい、しのぶさんの指示に従わせてもらうことにした。
使わせてもらっていた机を急いで整え、処理済み、未処理の紙が混じらないように最低限分ける。
それから自分の荷物を持ち、扉のそばに立っているしのぶさんへと近づいた。しのぶさんは、しのぶさんの目の前で立ち止まった私を
「…どうかされましたか?」
首を傾げながら見てきた。
私はそんなしのぶさんの目をじっと見据え
「無理せず、きちんと休んでくださいね」
それだけ告げると
「それでは、失礼します」
しのぶさん、それから珠世さんと愈史郎さんに会釈をし、玄関を出た。