第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
するとその時
ガチャッ
と音を立て、隣の部屋に続く扉が開いた。
「珠世様!」
扉を開けたのは珠世さんだった。
珠世さんの姿を目にした愈史郎さんの表情は、先程までの”不機嫌極まりない”と言わんばかりの表情とは一変し、なんだか輝いているようにも見える。
「戻って来ていたのですね。キリが付いたので、休憩を取ろうと思っていたのですが「それでは紅茶をお入れします!」……ありがとう、愈史郎」
愈史郎さんは珠世さんが全てを言い終える前に、手に持っていた紙袋をさっと椅子の上に置き、珠世さんが先程出てきた扉の向こうへと消えて行った。
”邪魔だ!”
”邪魔はどちらでしょうねぇ”
という会話が聞こえてきた後
「お疲れ様です。私は少し外の空気を吸って、気分転換でもしてきます」
しのぶさんが、いつもと変わりない様子で部屋から出てきた。そしてそのまま外へと続く扉の方へと真っすぐ向かって行き、言葉の通り、外に出て行ってしまった。
私は複雑な気持ちを抱いたまま、しのぶさんの手によって閉められた扉を、ただただ見つめてしまう。すると
「……彼女はとても優秀な女性です」
唐突に、珠世さんがそう言った。
扉に向けていた視線を珠世さんへと移すと、珠世さんは鬼とは思えない、穏やかな笑みを私へと向けてくれていた。
「毒を巧みに操る方です。その気があれば、解毒薬も作ることは可能なはず。だからあまり心配しすぎず、今は見守ってあげることが一番かと」
「…っ…もしかして…愈史郎さんとの会話…聞こえてましたか?」
私が恐る恐るそう尋ねると
「いいえ。ですが、”彼女のことが心配で仕方ない”…と、あなたの顔にしっかりと書いてありますよ」
そんな風に言われてしまい、私は思わず自分の頬を両手のひらで覆った。そんな私の様子に
「…あなたは、素直で可愛らしい人ですね」
珠世さんがニッコリと微笑みながらそんな事を言ってきた。
「…っ…そんなこと…ありません…」
俯き、もごもごとする私に
「そうでしょうか?そうして照れている姿も、とても可愛らしいと私は思いますよ」
先ほど以上に穏やかな口調でそう言ってくれた。