第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
しのぶさんは柱だ。一般隊士以上に、"自分は明日死ぬかもしれない身である"と常日頃から考え、鬼を滅殺するためとあらば、自らの命がどうなろうと厭わないだろう。そしてもし、鬼との戦いで、しのぶさんが命を落とすようなことがあったとすれば、確実にその鍛え抜かれた上質な身体は鬼に喰われる。
それにだ
……確か…しのぶさんのお姉さんは…上弦と戦って亡くなってるんだよね…
合同任務の際、任務を共にした隊士が、そんなようなことを言っていたはず。
互いに支え合って来た唯一の家族を奪われる痛みは、どれ程のものだったろう。本当の家族ではないが、”もし善逸が…”と考えると、想像しただけで、腸が煮えくり返りそうな、どうしようもない怒りの感情が込み上げてくる。
……きっと…鬼殺隊最後の砦である自分が負けることがあったとしても…毒をもってその鬼の命を狩るつもりなんだ…
思い出されるのはあの日、辛そうに廊下で座り込んでいたしのぶさんの姿。
”お願いだからもう藤の毒なんて飲まないで下さい”
そう言えたら、どんなに良いことか。
それでも、そんなことは言えない。そして言う権利も、私にはない。
「……藤の毒を摂取し続けたらどうなるんですか?」
「さぁな。自らの身体を毒漬けにする頭のおかしな人間を見るのは今回が初めてのことだ。俺が知るはずもない」
「……っ…飲むのをやめても…毒はなくならないんでしょうか?」
相変わらずの物言いに、もの凄く腹は立ったが、忍が扱う薬以外の知識が乏しい私は、この失礼極まりない男から話を聞くしかないと、奥歯を噛みしめ怒りを堪えた。
「…一般的な作用としては、頭痛、眩暈、腹痛、吐き気程度だ。あの女も、その症状が表に出てこない程度に、少量ずつ毒を摂取しているだろうからな。その逆のことをすれば、あるいは身体に蓄積された毒を消し去ることも可能だろう」
「……そうですか……教えていただきありがとうございます」
それだけ聞ければ今は十分と、一旦話を切り上げた。