第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「どうしたんですか!?」
急いで駆け寄り、しのぶさんの視線に高さが合うようしゃがみ込むと
「…っ…なんでも…ありません…」
しのぶさんは、依然として側頭部を押さえ、苦しそうな顔をしながらそう言った。
「それのどこが何でもないんですか!?」
私はしのぶさんの首にサッと手を置き、脈拍に異常がないかを確認しようとした。けれどもその手は
パシッ
「…っ…大丈夫です!」
しのぶさんの手によって払い除けられてしまった。
「……しのぶさん…」
しのぶさんにそんな風に拒絶されることも、しのぶさんのそんな余裕のない姿を見ることも初めてだった私は、どうしていいか分からずしばらく黙り込んでしまう。けれども
「…っ鈴音さん!?」
私は、自分とそう背丈の変わらないしのぶさんを
「お部屋に連れて行きますね」
サッと横抱きにした。
その時
……藤の花の香りだ……でも…なんかいつもより濃い気がする…
フワリと香ってきた藤の花の香に、僅かな違和感を覚る。
「…っ…自分で歩けますので…降ろしてください」
「あ!ダメです!暴れないでください!」
その違和感の正体を探したかったのだが、私の腕から逃れんと身体を捩ったしのぶさんの行動に、一旦その違和感を、心の端にそっと押しやったのだった。
結局その後、どうしたのか聞いても
"ただの寝不足からくる頭痛です。ですからそんなに心配しないで下さい"
と、いつもの笑顔で誤魔化されてしまったのか、はたまた本当に寝不足からくる頭痛なのか…どちらかはわからなかったものの、しのぶさんにゆっくり眠ってもらう事が最優先だと判断した私は、大人しく引き下がることにした。
それからちょこちょこ、しのぶさんの様子を失礼を承知で探らせてもらってはいたのだが、"流石はしのぶさん"というべきか、結局は私の感じた違和感の正体を掴むことは出来なかった。
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…あの時しのぶさんか座り込んでたのは…藤の花の毒のせいだったんだ…
"何故そんなことを?"
などと、馬鹿なことを聞いたりはしない。