第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
しのぶさんは自分は寝る間も惜しんで薬の開発をしていると言うのに、私にいつも
"遅くなる前に帰らないといけませんよ"
と言って、私を帰らせてくれる(全然平気です!私もしのぶさんが帰る時に一緒に帰ります、と言ったら、どこからか取り出したお注射を手に持ち"無理矢理帰らされたいんですか?"と言われそれからは素直に従わせてもらっている)。
だから私は毎日きちんと蝶屋敷に帰り、毎日同じ時間にこの研究室に来させてもらっていた。懸命に研究を進めるしのぶさんを尻目に、自分だけそんないい扱いをしてもらっていいのかと罪悪感を抱いていた。けれども
"鈴音さんがここに来てくれて、私がどれだけ助かっているか…ですから、そんな小さなことは気にしないでください"
と、困り顔のしのぶさんに言われてしまったので、いつまでも悪いと思っている方が失礼だと思い、甘んじてその気遣いを受け入れることにした。
あの日、しのぶさんが廊下の壁に背を向け座り込んでいた日も同じだ。
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私はいつも通りの時間に蝶屋敷に戻り、いつも通りにベットで眠っていた。
けれども
ドンっ
「…………ん…?」
何かが、壁にぶつかるような音が聴こえた気がして目が覚めた。
……やっぱり…最近…前よりも眠りが浅くなった気がする…身体を動かす量が少な過ぎるんだろうな…
横たえていた身体を起こし、目を擦りながらそんな事を考えていた。するとその時
"……はぁ…はぁ…"
と、苦しそうな息遣いが聴こえてきた。
…こんな時間に…誰だろう?今は重症患者さんはいなかったはず…何かあったのかな…?
そう思った私はベッドから降り部屋を出て、音の出所へと足を進めた。
角を曲がったその先の光景に
「…っしのぶさん!?」
私は、まだ陽も昇る前の時間帯だと言うのに大きな声を出してしまった。
視線の先にいた音の発生源は、数時間前まで一緒にいたしのぶさんで、しのぶさんは
「……っ…」
側頭部を手で押さえ、壁に背を預けるようにしながら廊下に座り込んでいた。