第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
”鈴音さんには、私と、ここにいる鬼の珠世さんが薬を開発するための手伝いをしてもらいます。珠世さんの後方にいらっしゃるのは、助手の愈史郎さんです。彼に手伝っていただければ一番なのですが、彼は他にやることがあるそうで。あ、ちなみにその方も鬼です”
”……は…はい…”
”あらあら。そんなに瞬きをしていると、目がおかしくなってしまいますよ~。ちなみにここで私が誰と何をしているか、基本的には極秘になっているので、煉獄さんにも言わないようお願いしますね”
”……は…はい…”
次々と起こる衝撃的な出来事に、情けない返事しか出来ない私だったが
”…随分と馬鹿そうな女だが…そいつに珠世様の手伝いが務まるのか?”
”……はい?”
愈史郎さんとやらの言葉で頭が切り替わった私は
”…厳しい師範の元、四六時中薬を調合していた私を舐めないでください。お2人の手伝い、この私が完璧にこなして見せます”
私の事を小ばかにするように見ている愈史郎さんをじっと見据え、そんな言葉を返したのだった。
こうして私は、しのぶさんと珠世さんが
薬を作る手伝いをしつつ、1日に30分ほどではあったが、しのぶさんと共に稽古をする時間を過ごすことになった。
「……よし。これで昨日の分までの記録は…纏まったと」
走らせていた万年筆を机に転がし、私は椅子に預けている背中をぐーっと伸ばした。
こうした座り仕事も苦手ではないが、流石に毎日、そして何時間も、机に向かい続けるのはこたえるものがある。
隣の部屋の方へ耳を澄ませてみると
"…これはこちらの方がよいのではないでしょうか?"
"…確かにその可能性もありますね。では今度はこの組み合わせにしましょう"
真剣なやり取りが聴こえてくる。
柱であるしのぶさんと鬼の珠世さん。2人の間に最初こそ不穏な空気感があったものの(正確に言えばそんな空気を出していたのはしのぶさんだけだったが)、医療に携わる者同士通ずるものがったのか、"良い雰囲気"とまでは言えないが、互いに協力し合える関係にはなれたのだと感じた。