第3章 未知との出会い、騒音との再会
母がまだ生きていたころ。
聴こうとしなくても聞こえてきてしまう、父と母のそれは到底愛情を感じるようなものではなかった。ただただ一方的な欲望をぶつけ、支配するためだけの行為だと子どもながらに理解できた。
早く終わって欲しい
と思いながら、耳を塞ぎ、頭から布団をすっぽりと被っていた。
男と情を交わすなんて、私は一生、まっぴらごめんだ
と、その時からずっと思っていた。
けれども図らずも今回耳にしてしまった天元さんとまきをさん2人の行為は、お互いを求め、愛を交わし合っていると、そう感じた。
私はこの時初めて、男女間の行為に、”欲望”だけではなく”愛”が存在することを知った。
”あぁぁっ!”
一層大きな喘ぎ声に我に返った私は、頭をぶんぶんと大きく左右に振り、邪念を払う如く顔を洗うのも忘れ、音柱邸の門を全速力で飛び出した。
それ以降私は、早朝に目を覚ましてしまった時、天元さんが任務や見回りから帰って来た時、そしてもちろん最初に約束させられた、天元さんが誰かを連れて自分の部屋に行った時、絶対に聴くことをしないように細心の注意を払った。
そんなことを考えている間も
「天元様はですねぇ…」
と須磨さんは依然として天元さんとの行為の話をやめる気配がない。
けれども
「ほら、その辺にしてあげなさい。鈴音が困っているでしょう」
と雛鶴さんが須磨さんを諭してくれる。
「いいえ!私はまだまだ言い足りません!私はですね、鈴音ちゃんに、好きな男の人に心も身体も愛されることがいかに幸せなことか知ってもらいたいんです!こんなに真っ直ぐで可愛い心の持ち主なのに!そんな素敵な魅力を知られることなく、鬼殺に明け暮れるだけの日々なんて…宝の持ち腐れです!全くもって納得がいきません!」
そんなに褒めてもらえるような見た目でも、中身でもないんだけど
と、そんなことを思いながらも
凄く…嬉しいな…
須磨さんのその言葉で、胸がとてもくすぐったくなった。