第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「…っ…手が空いた時に手伝いに来るのは問題ないでしょう?それに、夜はどちらにしろこの邸に戻ってくる「駄目だ」…だから!最後まで言わせてください!」
またしても私の言葉を遮ってきた杏寿郎さんを、思わずキッと睨みつけてしまう。
杏寿郎さんはそんな私の様子など全く意に介する様子はなく、私の瞳をじっと覗き込み
「柱稽古の間、君は蝶屋敷で寝泊まりするんだ。胡蝶にも、その許可は得ている」
と、そんな事を言ってきた。
杏寿郎さんから告げられたその決定事項に
……え…私…蝶屋敷に行くの…?…そうしたら…杏寿郎さんと…全然一緒に過ごせないじゃない…
私は思わず、そんなことを考えてしまった。
そんな私の様子に、杏寿郎さんはフッと顔を綻ばせ
「寂しがってくれているのか?」
穏やかな口調でそう尋ねてきた。
”寂しくない”
一瞬、天邪鬼な私がそう言いかけたが
「……寂しい…です…」
ここ数日、まったくと言っていいほど杏寿郎さんと時間を共に出来ていない私は、千寿郎君の前にも関わらず、思わず本音をこぼしてしまった。
杏寿郎さんは、そんな私の反応に僅かに目を見開き、その後すぐ、酷く甘い笑みを浮かべ
「素直な君は、何故そんなにもかわいいのだろうな」
私の頭頂部を、先ほど千寿郎君にしていたのと同じように優しく撫でた。
「…っ…!」
そんな言葉と行動に、私は赤面してしまう。
「俺とて、夜眠るときは鈴音の隣がいい。だが柱稽古が始まれば、ここには沢山の隊士が寝泊まりすることになる。俺は、大切な君を、男がたくさん寝泊まりする空間に居させることなど出来はしない」
真剣な表情で、ごく当たり前のようにそんなことを言ってのける杏寿郎さんに
「……はい…」
私は、頬を赤らめ、呆けたように返事をすることしか出来なかった(千寿郎君は”何も見ていません聞いていません”と言わんばかりに目を瞑り、耳を塞いでくれていた)。