第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
千寿郎君は無事笑い終えたのか、口元を覆っていた手を放し
「鈴音さんといるときの兄上は、本当に楽しそうで…俺、そんな兄上の顔が見られてすごく嬉しいです」
と、酷く幸せそうな顔をしながら言った。
そんな慈悲深くも見える顔に
「…千寿郎」「…千寿郎君」
私と杏寿郎さんの言葉が見事に重なった。私と杏寿郎さん、互いに顔を見合わせていると
「ふふっ…取り敢えず、中に入ってお茶でも飲みましょうか」
この場で一番年下であるはずの千寿郎君に諭され
「…そうだな」「はい」
私と杏寿郎さんは、再び声を揃えて返事をしてしまうのだった。
「それじゃあ…千寿郎君と槇寿郎様が、明日から始まる柱稽古の手伝いをしてくれるの?」
何故千寿郎君が炎柱邸にいるのか。
もしかしたらと思っていた私の考えは正解だったようで、千寿郎君は、杏寿郎さんから頼まれ、明日からの柱稽古の手伝いをするためにこの邸まで足を運んできてくれたのことだった。
「はい。俺に出来ることといえば、皆さんの介抱をしたり、食事を作ったり…それくらいしかないんですけど」
杏寿郎さんは、自信なさげにそう言った千寿郎君の頭頂部にポンと手を置き
「”それくらい”などどいうことはない。千寿郎が手伝いに来てくれるからこそ、俺はここに来る隊士達に、全力でぶつかれるというものだ」
千寿郎君の前だけで見せる、兄の表情を浮かべていた。
「そうだよ。私も手伝いに来られればいいんだけど「それは駄目だ」……まだ話している途中なんですけど」
私には、私のすべきことがあることは十分に理解している。それでも、しのぶさんとて休憩する時もあれば、鍛錬に時間を割くこともあるだろう。そんな時だけでも、ここに手伝いに来がてら、稽古をつけてもらえればと考えていた。
いたのだが、それを口に出す前に、杏寿郎さんの手によってその考えを一刀両断されてしまった。