第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
私は相変わらず面倒くさげな表情を浮かべている天元さんをじっと見据え
「わかりました。私は、お館様のご命令通り、柱稽古に参加するのではなく、しのぶさんを手伝うことに専念します」
と答えた。
天元さんは”頼んだぜ”と言い終えると、私との距離をスッと詰めてきた。それから背中を折り、私と視線の高さを合わせると
「柱稽古が始まれば煉獄の邸にも、どっと隊士が押し寄せてくる。あいつとよろしくやる暇もなくまっちまうぜぇ?残念だな」
「…っ…な!?」
にやにやと意地の悪い笑みを張り付けながらそんなことを言ってきた。
背後から”天元様”と雛鶴さんの咎めるような声が聞こえ、私はパクパクと意味もなく動かしていた口の動きを止めた。
「…っ変なこと言うのはやめてください!」
顔を赤らめ半ば怒鳴るように言った私を、天元さんは全く気にする様子もなく、依然としてにやにやとからかうような表情を浮かべている。
「んっとにお前は、いつまでたってもお子ちゃまだわ」
「お子ちゃまじゃありません!だいたいその話、これからどうするかっていう話と全然関係ないですよね!?私はいつからしのぶさんのところに行けばいいんです!?秘薬の調合はもうしなくていいんですか!?」
早口でまくし立てる私のその言葉に、天元さんはようやくからかい顔を止めてくれた。
「なるべく早い方がいいとは言ってたが、俺もはっきりとは言われてねぇからなぁ…胡蝶に鴉でも飛ばして聞いてみろや」
天元さんはそれを言い終えると”今日はもう帰れ”と言いながら私の横を通り抜け、雛鶴さんまきをさん須磨さんがいる方へと歩いて行った。
その背中をなんとなく目で追いかけていると、雛鶴さんとパチリと目が合った。
……そういえば…雛鶴さん、さっき何を聞こうとしてたんだろう
そう思った私は口を開こうとしたが、雛鶴さんはチラリと天元さんの顔を見たあと再び私へと視線を戻し
「…また今度、お話ししましょう」
僅かに困ったようにも見える顔をしながらそう言った。そんな私と雛鶴さんのやり取りに
「お前ら、この俺様に一丁前に隠し事かぁ?」
と、天元さんが揶揄い口調で口を挟んで来た。すると
「はい。私と鈴音、2人だけの秘密です」
雛鶴さんは見惚れてしまうほどの綺麗な笑みを浮かべそう言った。