第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「あれ?しのぶさんと水柱様は稽古をつけてくれないんですか?」
"蟲柱"であるしのぶさんと、"水柱"である冨岡様の名前もその中にあっていいはずなのに、天元さんの話にその2人は出てこなかった。
私のその問いに、天元さんは不機嫌な表情を浮かべた。
「胡蝶のやつは、お館様から直々に頼まれてることがあるからそっちに専念するんだと」
「それなら仕方ないですね。…じゃあ、水柱様は?」
「あいつは知らねぇ」
天元さんは私の問いに間髪なく答えると、不機嫌そうな表情をさらに深め
「"俺はお前らと違うから柱稽古は出来ない"…とかなんとか言って、悲鳴嶼さんの話も聞こうとしねぇんだ。ったく。あいつ、何様のつもりだよ」
身体の前で組んだ腕を、指先でトントンと叩きながらそう言った。私はそんな天元さんを
「……そう…ですか…」
なんとも言えない複雑な気持ちで見てしまう。
正直に言うと、私は水柱様の事が気になって仕方ない。もちろんそれは"色恋"と言うものからかけ離れた感情から来るもので、杏寿郎さんのことを気にかける気持ちとは全く種類が異なる。
水柱様とは個人的なお話をしたことはない。あると言えば、秘薬の稽古の際、その鮮やかな受け流し方のコツを教えてもらった程度だ("コツなどない身体で覚えろ"と言われほとんど見て学ばせてもらったが)。
それでも秘薬の稽古を通して、水柱様が私と同じ部類の人間…つまり
"自分のことが嫌いな人間"
である事が、同じ感情を長年抱いている私にはわかってしまった。わかってしまったからこそ、天元さんが水柱様の事をそんな風に言うのが残念だった。
……水柱様は…不器用で…どうしようもなく口下手な人なんだろうな
私は水柱様と違い、不器用でもなければ口下手でもない。けれども、他人に自分を曝け出すのが苦手で、何よりも、自分のことが嫌いで嫌いで堪らなかった。
……私は…杏寿郎さんに出会って変わることが出来た……だから水柱様も…恋人…とかじゃなくても…杏寿郎さんが私にそうしてくれたように…心の壁を強引にでも壊してくれる人が現れてくれればいいのに
お節介だと理解しながらも、私は水柱様を見ていると、そんな感情を抱いてしまうのだった。