第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
それから左右に視線を彷徨わせ、改めて私と視線を合わせると
「鈴音…あなた、顔の雰囲気が少し変わったんじゃない?」
そんなことを尋ねて来た。
「……え?顔の雰囲気…ですか?」
「そうよ」
「…むくんでるとかですか?」
「むくんでいるとか…そういうのじゃないの」
そう言う雛鶴さんは、なんだか困っているようにも見え、私は困惑した。
……顔の雰囲気って……何?…自分の顔は毎日鏡で見てるけど…毎日同じ顔だし……全然わかんない…
お互いに、秘薬を調合していた手は止まっていた。
すると雛鶴さんは、その場からゆっくりと立ち上がり、私の方へと移動してくる。それから私の隣までやってくると、静かに腰かけた。
そこまで開いていない互いの距離をわざわざ縮めてまで、一体何を言われるのだろうかと、私の困惑は深みを増す。
「鈴音」
私はゴクリと唾を飲み込み
「…はい」
返事をした。
雛鶴さんが”あなた…”と口を開いたその時
「戻ったぜぇ~」
柱合会議を終え戻って来た天元さんが、離れの扉をガラリと開いた。すると先程まで言い争いをしていた筈のまきをさんと須磨さんがぴょんと跳ねるように天元さんの元へと向かい
「「天元様お帰りなさい!!!」」
左右の腕に絡みつくように、その身を寄せた。それから天元さんは
「鈴音、今後の予定を伝える。こっちへ来い」
2人を腕にくっつけたまま、私へと視線を寄こして来た。
「はい!今行きます!」
私は天元さんに向けそう答えた後、隣にいる雛鶴さんへと視線を戻した。すると雛鶴さんは、にこりと柔らかな笑みを浮かべ
「…後でまた、話をしましょうか」
と言ってくれた。そんな雛鶴さんの様子がどうにも気になりはしたのだが、天元さんから聞く今後の予定が"最重要事項"であることは明白だ。
「……はい。すみません」
私は”いいのよ”と微笑む雛鶴さんに会釈し、離れの扉のそばにいる天元さんの方へと向かった。