第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
けれども
「いや。実のところ大したことは決まらなかった」
「…そうなんですか?」
杏寿郎さんのそんな答えに、なんだか拍子抜けしてしまった。
「甘露寺と時透が回復次第、再度会議を執り行う。その際改めて、今後我々がどのような動きを取るべきかを話し合うことになった」
杏寿郎さんはそう言いながら私の身体を更にギュッと抱きしめて来た。その行動から、やはり杏寿郎さんの様子がいつもと違っていることは明白で
「…大丈夫です」
私は、顔を真上に向け杏寿郎さんの隻眼をジッと見つめる。
「約束しましたよね?私、どんなことがあっても杏寿郎さんの元に帰ってきます。お父様とも…槇寿郎様ともそう約束しました」
私の言葉に、杏寿郎さんの不安げに揺れる瞳が落ち着きを取り戻したように見えた。私は、そんな杏寿郎さんの表情の変化にホッとしながらも
「むしろ私は、杏寿郎さんの方が無理をしそうで怖いと思っているんですからね?そんな顔で私を見るのなら、杏寿郎さんも絶対にに無理はしないで下さいよ?」
不満の気持ちを表すように唇をムッと突き出しながらそんなことを言ってみた。すると、瞳をスッと細めた杏寿郎さんの端正な顔がフッと近づき
ちぅ
と、私の唇に、杏寿郎さんのそれが優しく押し付けられた。ふわりと胸を包む幸せな甘さに
……杏寿郎さんとこうするの…やっぱり好きだな…
そんなことを考えてしまう。あっという間に離れて行った杏寿郎さんの柔らかいそれを”残念”なんて思いながら瞑っていた目を開けると、愛おし気に私を見つめる杏寿郎さんの表情が視界を埋め尽くした。
そんな表情に途端に恥ずかしさを覚え
「…っ…話の…途中ですからね?」
思わず憎まれ口を叩いてしまう。そんな私の様子に
「わはは!君が可愛く唇を突き出してきた故して欲しいのかと思ってな。違っただろうか?」
杏寿郎さんは笑い声をあげそんなことを尋ねて来た。
「…っ違います!」
そう答えた私に、杏寿郎さんは再び顔を寄せ、鼻と鼻がくっついてしまうほどの距離で止まると
「それは残念。だが俺は、ここ数日会えていなかった鈴音をもっと堪能したい。……いいか?」
熱の込もった瞳でそう尋ねて来た。