第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
……少しだけ…少しだけ
そう思いながらゆっくりと目を瞑ると、いつの間にか眠りの世界への扉が開いており、私はあっという間にそこへと足を踏み入れてしまったのだった。
ガラガラガラ
………ん…?
耳を澄ませているつもりはないのに、布団で眠っている私のところまで、玄関の開く音が聴こえてきた気がした。それと同時に、夢も見ないほどぐっすりと眠っていたはずなのに、私は眠りの世界からスッと引き戻される。
するとはっきり感じるようになった、玄関から真っすぐこちらに向かって来る杏寿郎さんの気配に
……っ…大変!早く隊服を着なきゃ…!
大急ぎで身を起こし、布団の横に気持ち程度に畳んで置いた隊服を手にとる。バタバタとズボンをはき、上着に腕を通したところで
スッ
と、部屋の襖が開いた。
杏寿郎さんは、慌てて隊服のボタンを締める私の姿を確認すると
「寝ていたのか?」
そう言いながら私にゆっくりと近づいて来た。
……あれ?思ってた反応と…ちょっと違う…
正直に言うと、寝起きの肌着姿を見られようものなら、即”そっちの方向”に持って行かれると思っていた。だから大慌てで隊服を着ていたのだが、予想に反し、杏寿郎さんにそういうつもりはなさそうだ。
杏寿郎さんはゆっくりとした足取りで私の方へと歩み寄ってくると
「宇髄から、鈴音がここのところ疲れた顔をしていると聞いた。鍛錬に調合、大変なのはわかるが、あまり無理はしないで欲しい」
そう言いながら、丁度ボタンの一番上まで締め終えた私をギュッと抱きしめた。
「……心配かけてごめんなさい」
一番上のボタンに両手を掛けたまま腕ごと抱きしめられてしまい、身動きがほとんど取れない状態になってしまったものの、久しぶりに杏寿郎さんにこうしてもらえたことが嬉しくて、私は杏寿郎さんの胸板辺りに接している側頭部をスリスリと擦り付けた。
そうすると、杏寿郎さんが私を抱きしめる強さが強まった。まるで私の存在を確かめているかのようなその行動に
「…緊急の会議…何か決まったんですか?」
私は視線だけを上に向け、杏寿郎さんの反応をうかがう。