第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
杏寿郎さんは咄嗟に頭にしがみついてしまった私の背中を空いている方の手で支え
「大事ないか?」
酷く優しい声色でそう尋ねて来た。そんな風に聞かれてしまえば喉元まで出ていた”何をするんですか!”と言う文句の言葉は引っ込んでしまい
「……大丈夫…です」
杏寿郎さんと私の方へと向けられている、生ぬるく、呆れを孕んだ視線に(隣の恋柱様だけは種類の違う温かさを感じるが)気づかないふりを決め込んだのだった。
こうして約1か月に渡る、柱、そしてその継子を巻き込んだ秘薬を飲んだ状態での合同稽古が始まることとなった。
誰がいつ秘薬を服用し、反動で見回り・任務にいけない分を誰が肩代わりするのか。計画を事細かに決めたお陰で、どちらも支障なく行うことが出来た。
杏寿郎さんは秘薬を飲んで訓練をすることはなかったが、秘薬を服用した善逸、炭治郎君、伊之助君、そして私の相手をしてくれていた(炎柱邸で行っていた隊士への稽古は槇寿郎様がしてくれているらしい)。
稽古と並行して左耳の治療を続けていた私は、ほぼ完治と言えるところまで回復し(あんな風に自暴自棄になり周りに心配を掛けたことが今ではものすごく恥ずかしい)、ようやく任務に復帰することが出来ると張り切っていた。
けれども
”任務はいいからお前は秘薬を作るのを手伝え”
と、天元さんに言われてしまい、訓練と調合に明け暮れる日々を送ることになった。
ゆくゆくは鬼殺隊に所属する全隊士に秘薬がいきわたるようにしなけらばならないため、天元さんから告げられた目標完成数に目をひん剥きそうになった。
しかも秘薬を作るのは、雛鶴さんまきをさん須磨さんそして私のたった4人ときたものだから(秘薬の材料は危険だから素人じゃ扱えない?私も素人ですけど!!!)、追い出されたはずの音柱邸に泊まり込みことも増え、杏寿郎さんと共に過ごせる時間も必然的に減ってしまった。
”普通に任務をこなしている方が楽”
そう思えてしまうほどに忙しい日々は本当に大変だったが、普段お目にかかることの出来ない柱と手合わせできる機会は任務をこなす以上に得られる物が多く、特に風柱様が他の柱と手合わせするのを見ていることが、私にはとても参考になった。