第3章 未知との出会い、騒音との再会
そんな私に
「…鈴音は、天元様が、どうして私たち3人を妻にしているかわかる?」
雛鶴さんがそう尋ねる。
「…忍…だからですか…?」
「正解よ。それが私たちがいた里の決まりだったの」
雛鶴さんは、ほんの少し悲しそうな表情をしながらそう答えた。
「私たちはね、別に愛し合っていたから夫と妻になったわけじゃないの。優秀な忍である天元様の遺伝子を持った子を、一人でも多く残せるように充てがわられた、言ってしまえば子を産むためだけの道具みたいなものね」
「…っ何…それ…」
あまりの腹立たしさに、それ以上何も言うことが出来ず、私はぎゅっと服の裾を強く握る。
「くノ一の私たちにとって、それは当たり前の事で、嫌だなんて思うこともなかったわ」
そんな悲しいことを、優しく微笑みながら言ってほしくなかった。
「そんな歪み切った場所から、私たちを連れ出してくれたのが、他でもない天元様だったの。私たちの命を最優先に考えてくれて、子を孕むためだけに選ばれたはずの私たちを、心から愛して大切にしてくれる。あんな素敵な人、他のどこを探したっているはずないわ」
そう言う雛鶴さんの顔は、先ほどと同じ優しい笑顔ではあったが、それ以上に、天元さんへの深い深い愛情を感じた。
「そうだね…。天元様以上の男なんてあり得ない!もしいるならここへ連れてきて欲しいくらいだよ」
「そうです!天元様は世界一です!そして私たちは、世界一天元様のことを愛しているのです!」
そう言うまきをさんの顔も、須磨さんの顔も、本当に幸せそうで
「…素敵…ですね…」
愛し愛されることを知らない私には、それ以上のことは言えなかった。けれども、雛鶴さんの話で、いかに天元さんが深い愛情の持ち主で、雛鶴さん、まきをさん、須磨さんを大切にしているかは理解できた。
「私なんかの為に…そんな大切な話をしてくれてありがとうございます。…いつか…私も…そんな風に誰かを愛せるように…なりたいです」
私はこのとき、人生で初めて、心からそう思った。
「きっとなれるわ」
「きっとなれるさ」
「きっとなれます!」
その優しい言葉たちが、長年凍り続けている私の心に、ほんの少しのヒビを作ってくれた。
「ありがとう…ございます」
3人とも酷く優しい笑みを浮かべ、私を見ていた。