第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「鈴音は元々身体能力が高いわけじゃねぇ。体質的に筋肉も付きにくい。だから人一倍秘薬の効果は短くなる」
そんな天元さんの言葉に
「鈴音さんがそうだとすると、同じような体質の私もそうだということですね」
しのぶさんが、僅かに声を落としながらそう言った。
「恐らくそうだ。だが、たったの2時間でも、一般隊士が柱と渡り合えるほどの力を得られる…つまりは元々能力が秀でた柱が秘薬を服用すれば、上弦にも引けを取らない強さが得られるはずだ」
そんな天元さんの言葉に
「だけど効果が切れるとその人みたいに動けなくなっちゃうんでしょ?」
霞柱様は、ぼんやりとした表情を浮かべ、私の事を指さしながらそう尋ねてきた。
「そうだ。鈴音。お前今どんな感じだ」
天元さんが私にそう質問を投げかけると、その場にいた岩柱様以外の視線が一斉に私へと集まって来る。
……そんなに見ないでよぉ
手合わせの時は、風柱様に集中していたからじっと見られても特に気になることはなかった。けれども、今のこの脱力した状態で(好き好んでこうなっているのではない)、そんな風に見られるのは非常に居心地が悪かった。
私はフッと小さく息を吐き、抜けていた気持ちを立て直す。
「…秘薬の効果が切れたと思われる直後は、筋肉に力が入らなくなって…弛緩する…?…そんな感じでした」
「なるほど!」
「でも今は…力が全く入らない訳ではありませんが、酷い筋肉痛になった感覚です。なのでどちらにしろ、いつも通りに動くことは不可能だと思います」
恋柱様に預けさせてもらっていた身体を起こしたが、筋肉がミシミシと軋むような感覚を覚え、ただきちんと座ることですら困難な状態だった。
「秘薬の効果が切れると、もれなく鈴音のような症状が出る。そうなれば、最悪雑魚鬼と戦うことは出来ても、上弦と戦うことなんざ到底無理だ。だからこそ、お前らが秘薬を飲んだ時、どれだけその効果が続くかを"正確に"把握しなきゃならねぇ。更に元々の能力以上の力が出る身体で、最上級の動きが出来るようにならねぇと、確実に上弦の頸を取る事なんざ夢のまた夢だ」
天元さんの言葉を噛み締めているかのように、しばらくの間誰も言葉を発しなかった。