第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
その直後
ドォォォォォォン
ほんの1秒前まで私がいたところから、ものすごい轟音が聴こえて来た。
「秘薬の効果が切れる前兆はほとんどねぇ。つまりは、今みたいに互角、あるいは優勢を保っていた状況から一気に命の危険にさらされる恐れがある」
仁王立ちをし、何事もないように話している天元さんだが
「…天元さん…お腹……苦しいです…」
その小脇には、ほとんど力が入らなくなった私が抱えられている。秘薬の反動で仕方ないとはいえ、縁側に行儀良く腰掛けている柱の方たちの前、更にはお館様に奥方様、そしてご息女の前で荷物のように抱えられている姿をさらすのは情けないとしか言いようがなかった。
「こいつの場合、秘薬を飲んでから10分程度で効果が切れてるからなぁ…正規の量を飲んだら、多く見積もって2時間くらい効力が続くってところだな」
「随分と短すぎやしないか?2時間で上弦との戦いが終わるとは到底思えない」
蛇柱様は、まだ秘薬を使用することに対して完全には納得していないようで、試すような表情を浮かべながら天元さんの顔をジッと見ていた。
そんなやり取りを、きちんと見ていなければと思った私だが
……もう……無理…
顔を正面に向けている事すら億劫になってしまい、がっくりとうなだれるように力を抜いた。
その時
「っすみません!」
恋柱様の鈴のように愛らしい声が、天元さんと蛇柱様の会話に割って入ってきた。すると
「どうかしたか?甘露寺」
蛇柱様が先ほどまでの鋭さ満点の声色とは相反する、穏やかで、優しい口調で恋柱様にそう尋ねていた。
あまりのその変化に
……蛇柱様…恋柱様の事お好きなのかな…?
こんな状況にも関わらず、そんな思考に至ってしまったのは仕方のないことだと思う。
恋柱様はもじもじとしながらも
「そのままだと荒山さんがあまりにもかわいそうだから…ここに座らせてあげてもいいかしら?そうすれば、宇髄さんがそうしていなくても、私が支えててあげられるわ」
と、小脇に抱えられた私を心配気に見ながらそんな事を言ってくれた。
そんな恋柱様の申し出に
「む!?」
明らかに”先を越された”と言いたげな杏寿郎さんの声が耳に届いて来る。