第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
明らかに理不尽な扱いを受けている今こそ杏寿郎さんがひとこと物申してくれればいいのに、先ほどお館様に諭されたことが相当堪えたのか、杏寿郎さんは顔の前で拳を作り
”がんばれ鈴音”
と口パクで応援してくるのみだった。
……もぅ!!!
こうなれば頼れるのは己のみ。ようやく解放された頭を自らの手で慰め
「…5分間…必ず耐えて見せます!」
天元さんの赤紫色の目をキッと睨みながら力強い返事をした。
私が立って居るのは、白みがかった綺麗な玉砂利が敷かれ、手入れの行き届いた木や花がある和やかな雰囲気漂うお館様のお庭の筈なのに、張り詰めた空気の中、風柱様と睨み合うように対峙していた。
先ほどまで庭に横一列で並んでいた柱の方々は、その並びを保ったまま縁側に移動している。
……左耳は…6割位まで回復してる…ここはそこまで余計な音もしないし…きっと聴きわけられる
私は、天元さんが私用にと持ってきてくれた短めの木刀2本を握り直し、真正面に立つ風柱様の動きへと集中する。
一方風柱様は木刀を構える様子もなく、余裕たっぷりな表情で右手に持ったそれをブンブンと振っていた。
天元さんはそんな私と風柱様の中央に位置する場所に、両腕を組みながら立っており
「鈴音。避けてばかりじゃ秘薬の効果を示せねぇ。出来るだけ正面から不死川の攻撃を受け止めろ」
「……善処します」
私に無理難題を押し付けてくる。
「準備はいいか?」
天元さんの問いかけに
「あァ」「はい」
私と風柱様の返事が重なった。
天元さんはどこからともなく取り出した懐中時計に視線を向けた後
「呼吸を使うかどうかはそれぞれの判断に任せる」
そう言いながら風柱様、それから私へと順番に視線を寄越した。そんな天元さんの言葉に、風柱様が"んなもん使うまでもねェよ"と小さく呟いたのが私の耳に届いてくる。
…私は…雷の方を使わないと対応しきれないだろうな
ゆっくりと目を瞑り、頭の中で雷雲を形造ると、最近使う頻度がすっかりと多くなった響の呼吸を仕舞い込む。