第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
本来しなくてもいい配慮をさせてしまい申し訳なさがこみあげてきたものの、お館様がそうまでして私をこの場に呼んだことには理由が有る筈。
……私は…その期待に応えるんだ…!
抓っていた右太ももから手を離し、代わりにギュッと拳を握りしめ斜め後ろにいる天元さんの顔を見た。
私と天元さんの視線が一瞬合い、その後すぐ天元さんは正面へと視線を戻した。そして天元さんが発した言葉は
「不死川」
「なんだァ」
「お前、こいつと手合わせしろ」
私が予想していた”この場に呼ばれた理由”と合致していた。
「はぁ!?なんで俺がお前ェのくそ弱ェ継子と手合わせしなきゃなんねェんだよ?そいつに秘薬を飲ませて薬の効果を示してェなら他の奴だっていいだろうがァ」
風柱様も天元さんの意図は理解していたようだが、自分が手合わせの相手に選ばれたことにはどうにも納得がいかないらしく、鬼の形相で天元さんを睨みつけていた。
……私も…出来れば風柱様は避けたいな…手合わせなら恋柱様の方が…
そう思っていたのだが
「いや駄目だ」
天元さんはきっぱりとそう言い放ち
「胡蝶はこいつと体格が似てる。伊黒と時透も比較の対象としては他の奴らに比べて小柄。甘露寺は手加減する可能性がある。悲鳴嶼さんには秘薬の効果を見たうえでの冷静な判断を仰ぎたい。煉獄は…まぁ無しだ」
依然として一列に並んでいる柱達の顔を順々に見ながらそう言った(杏寿郎さんが非常に不満げな顔をしていたが見えなかったことにする)。
「なら今名前が挙がってねェ冨岡かお前ェがやれや」
風柱様は面倒くさそうに頭をボリボリかきながらそう言った。
「俺とこいつじゃ互いに手の内を知りすぎてる。冨岡は…なしじゃねぇが受けて流すタイプだろ。こいつも、どちらかと言えばそうだ。受けて流すタイプ同士をぶつけるのは、秘薬の効果を確認するには適切な組み合わせじゃねぇ。だからお前が適任だ。しかもお前、秘薬使いてぇんだろ?だったらちったぁ協力しろ」
天元さんの理路整然とした口ぶりに、風柱様はそれ以上言い返すことが出来なかったようで
「……チッ」
大きな舌打ちをした後、ゆっくりと立ち上がった。