第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
お館様に諌められた杏寿郎さんは
「……鈴音の事となるとついムキになってしまい…申し訳ありません」
顔を真下に向け、気落ちしたような静かな声色でそう言った。そんな杏寿郎さんの様子を、会議が始まる前と同じように、柱の面々が物珍し気に見ていた(しのぶさんと天元さんはそんな杏寿郎さんの様子にはすでに慣れているのであまり興味がないようだ)。
「杏寿郎は鈴音のことが本当に大切なんだね。そんな風に誰かを心から愛せるようになったことは、杏寿郎のこれからも続いてく人生においてとても幸せなことだね。その未来の為にも、今は少しだけ我慢してくれるかな?」
父のように、あるいは母のように杏寿郎さんを諭すお館様の声に
「…はい。己の感情を制御できず申し訳ありません」
杏寿郎さんは声を落としながら言った。
「謝る必要はないよ。私は、杏寿郎が自分の心根を明かしてくれるようになったことがとても嬉しいんだ。これからもその心を大切にして欲しい」
「……っはい!ありがとうございます!」
そんな杏寿郎さんとお館様のやり取りを、天元さん含め他の柱達は静かに聞いていた。
一方私はと言えば
……だめ…しっかりしないと…お館様の声じゃなくて…言葉に集中しなきゃ…
その特徴的な波長に飲み込まれまいと必死だった。
右手で右太ももをギュッと抓り、少しでも気をそらそうとしていると、お館様の視線がチラリと私の顔へと向けられた。けれどもその視線はすぐに天元さんへと移っていき
「喋りすぎてしまいすまないね。天元、続きを頼むよ」
「はい」
「それじゃあ申し訳ないけど私は座りながらみんなの話を聞かせてもらうね」
お館様は、ご息女2人とあまね様に支えられ、ゆっくりとその場に座られた。
今回お館様があまり発言なさらないのは、体調が優れないということもあるだろうが、あの独特の波長を持つお館様の声の影響を過剰に受けてしまう私へのお気遣いなのだろう。