第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
天元さんは胡蝶様と恋柱様に"よっ!"と適当な挨拶を済ませ私の前までズンズンと歩いてくる。それからグンとその腰を折り、私と顔の高さが合うように姿勢を低くすると
「調子どうだ?」
そう尋ねてきた。その口調に、普段の揶揄うような様子は微塵もなく、私の具合を心から案じていることが見て取れる。
「問題ありません。色々と…すみませんでした」
そう言いながら頭を下げようとしたのだが、天元さんの大きな右手に頭をガシッと鷲掴みにされ
「悪くもねぇのに謝んじゃねぇこの馬鹿弟子が!」
それを阻止されてしまう。天元さんはつりあげていた目をフッと元に戻し
「本当に、どこもおかしな所はねぇんだな?」
赤紫色の瞳で私のそれを覗き込むようにしながらそう尋ねてきた。
「はい。任務に行く前と、なんら変わりはありません。だからもう…気にしないでください」
私がそう言うも、天元さんは今回の出来事に対し相当負い目を感じているのか、フッと視線を下げ黙り込んでしまう。
私は目の前にある天元さんの手首をガシッと掴み
「私が!私の意思で!今回の任務に参加したんです!あの出来事も…私自身の油断が招いた事です!いつまでもそんなしみったれた顔されるの…逆に迷惑です!」
相変わらずいつもの覇気がない目をキッと睨みつけながらそう言った。
そんな私の様子に、天元さんはキョトンと目を丸くし、胡蝶様は"あらあら"と物珍しそうなものでも見るような顔をし、恋柱様はおろおろと心配そうな表情を浮かべながら右往左往していた。
「…ったく。お前は本当に生意気な弟子だよ」
天元さんはそう言いながら丸くしていた目をスッと細め、鷲掴んでいた私の頭を、今度はわしゃわしゃと乱暴に撫で始めた。
珍しい天元さんのそんな行動が気恥ずかしく
「……ぐちゃぐちゃになるんですけど」
私はボソリとそう呟いた。