第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「こんにちは。お二人とも、来るのが早いですね」
そう言ったしのぶさんとパチリと目が合ってしまい、しのぶさんが、あの藤の家の離れまで私の様子を見にきてくれたことが自然と思い出される。
恐らく杏寿郎さんが整えてくれていたと思うし、診察の一環として致し方なくとは理解しながらも、あれだけ激しい事後の部屋にしのぶさんが足を踏み入れたのだと思うと
「…っ…あの…その…」
先ほど、恋柱様の言葉で熱を帯びたその時とは比べものにならない位に頬に急激な熱が集まり、しどろもどろになってしまった。
「荒山さん…顔が真っ赤だわ。どうかしたの?」
恋柱様はそんな突然の変化に驚いたのか、心配気に私の顔を覗き込んできた。
一方しのぶさんは、そんな私の様子など勿論お見通しで
「あらあら。そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよぉ」
相変わらずニコニコと、けれども若干揶揄うような部分も含みながらそんな風に言われてしまう。
「……あんなところまで、お手数をおかけしてしまいすみませんでした」
「いえいえ。あれも仕事の内ですから、謝る必要はありません。その後体調はいかがですか?」
「……はい。特に……問題ありません」
本当は、下半身(主に腰辺り)に絶えず筋肉痛のような痛みがあったが、そんなことは恥ずかしくて言えるはずもなく、正直にいうことが出来なかった。
けれども、そんな事はしのぶさんにはお見通しだったようで
「それは良かったです。ですが、念のために痛みを和らげる貼り薬を持ってきたので、帰りにお渡ししますね」
さらりとそんな事を言われてしまった。
「……ありがとうございます」
居た堪れず、お礼の言葉がとても小さいそれになってしまう。
すると今度は
「なんだぁ?お前、随分としみったれた声だが…まだ調子悪ぃのか?」
そんな言葉と共に
「…っ天元さん!」
しのぶさんの背後に、天元さんが音もなく降り立った。