第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
「…やっぱり…そうですよね」
”柱”という地位まで昇りつめた人たちだ。一時的な能力向上の手段として”薬”というものに頼ることを邪と捉える人もいるかもしれない。
危険を犯して手に入れた秘薬も、隊の最高位、柱の方々に認めて貰うことが出来なければ、隊の戦力を高める結果に繋げることは出来ないだろう。
「だが心配無用!」
私の不安を払拭するような真っすぐな声に、私は杏寿郎さんの口から紡がれる言葉に集中する。
「自分の知らないものに疑念を抱くことは正常な思考だ。そして抱いた疑念を簡単に受け入れてしまうような人間は、隊の先頭を走ることなど出来ない!だからこそ受け入れてもらうのは難しいやもしれん。そんな彼らが納得できるよう、俺や宇髄、そして鈴音で薬の有効性を示すまで!故に心配する必要はない!」
疾走しているはずなのに少しのブレも感じさせない杏寿郎さんの言葉の一つ一つが、私の心にしっかりと突き刺さってくる。
「……そうですね。そう出来るよう…私も力を尽くします」
「うむ!そうしてくれ!これで話は終いだな。すまないが耳栓を元に戻す」
「はい」
私は耳栓がぐっと押し込まれたのと同時に、杏寿郎さんの声に耳を傾けるのをやめ、再び頬に当たる風と杏寿郎さんの温もりに意識を集中させたのだった。
それからしばらく経ち、杏寿郎さんの移動速度が徐々に緩み始めた。
…もうすぐ着くのかな…?
そんな風にのんきに構えていた私だが、固まった身体を少し伸ばそうと僅かに身じろぎした直後、杏寿郎さんの動きがピタリと止まった。走り続けていた杏寿郎さんの動きが止まったという事は即ち、お館様のお屋敷に到着したことを指し示す。
…っ…嘘!?もう着いちゃったの!?杏寿郎さんどうして何も言ってくれなかったの!?…人の気配は…?……っ…するじゃない!!!
視覚と聴覚を奪われている為致し方ないとはいえ、杏寿郎さんの腕に抱かれ、せっせと運ばれて来た姿を上官である柱に見られてしまう。