第15章 強くなりたいと願うなら、前を向いて進め
杏寿郎さんの邸に戻り小休憩をはさんだ私たちは、町で食事を済ませ、緊急の柱合会議へと向かった。
もちろん私は前回同様お館様のお屋敷までの道順がわからないよう視界と耳を塞がれ、杏寿郎さんに横抱きにされるという移動手段を取らされた。
けれども、前回のそれの時とは違い、恥ずかしさのようなものをあまり感じなくなっていた。
あれだけ痴態をさらしたんだもん…もはや怖いものなしだわ
聴覚と視覚、そしてただただ杏寿郎さんに運ばれる他ない私が出来ることと言えば
……気持ちいい風
颯爽と走り続ける杏寿郎さんが巻き起こす風と
…それに…すごく暖かい
身体の右半分に感じる杏寿郎さんの温もりを感じる位だ。
こうされていると、何も怖いものなどない気がしてしまうから不思議だ。杏寿郎さんが側にいると、どんな困難でも乗り越えられるような気さえする。
けれども現実はそれでは駄目だ。
”気がする”
なんて根拠のない言葉は、私が、私たちが生きて戦い抜くためには排除しなければならない。
”必ずやり遂げる”
そんな確固たる信念を胸に抱き、私は私の進むべき道を歩まなければならないのだ。
秘薬が…みんなの力になってくれたらいいな
そんなことを考えていると、自然と杏寿郎さんの首に回している腕に力が入ってしまう。
すると杏寿郎さんが、私の耳にすっぽりとはまっていた栓を片方だけ緩めてくれた(私を腕に抱いた状態、尚且つ走り続けながらどうやったのかはいまいちわからない)。
「どうかしたか?」
僅かに聞こえてきたその問いに
「…いいえ……でも…あの…」
「なんだ?」
悩んだ末、私は杏寿郎さんの声が聞こえて来る方へと顔の向きを変え、口を開いた。
「……柱の皆様が、秘薬を使うことを受け入れてくれると思いますか?」
「………」
杏寿郎さんはなんと答えるべきか悩んでいるのか、暫く沈黙した。それから
「俺とて初めて秘薬の話を耳にした際、疑念を抱いた。故にそう簡単に受け入れることは出来まい」
真剣な声色でそう答えた。