第14章 秘薬を求めて※
湯殿に足を踏み入れると、杏寿郎さんの言っていた通り私が使えるようにと大判の手拭いと石鹸が準備されていた。
…この藤の家の主人…ひささんって言ってたっけ…?きちんとお礼とご挨拶をしたいけど…顔を合わせるのがちょっと気まずいな…
杏寿郎さんが着せてくれたと思われる浴衣をはらりと脱ぎさりながらそんな事を考えていると、フッと自分の右手首が視界に入る。
そこにはまだ鬱血痕が残っており
"私は杏寿郎さんのもの"
と自己主張しているように見えた。
…杏寿郎さんのものでいられる身体のままで……よかった
もしもあの時、天元さんが戻ってくるのが遅かったら、私は天亥様に身体を暴かれていただろう。そして快楽という地獄に落とされ、愛してもいない相手に自ら腰を振っていた可能性も高い。
一度でもそんな事をしてしまえば、私は2度と杏寿郎さんに愛してもらえないどころか、そばにいる事すら出来なかった。例え杏寿郎さんがそれでも良いと言ってくれたとしても、きっと私自身が、私を許すことができなかったに違いない。
あったかもしれないそんな未来をを少しでも想像すると、震えてしまいそうなほどの恐怖が胸の奥からズズズと迫り上がって来る。
…天元さんには…今日会った時に改めてお礼を言おう
一糸まとわぬ姿になった私は、ガラリと扉を開き浴室へと足を踏み入れる。もくもくとわずかに湯気を上げている湯船はとても温かそうで、早く入りたいと思い急いで頭と身体を洗った。
使った桶と椅子を綺麗に洗い流し、急足で湯船へと向かう。それからチャプリと右手だけを湯船に浸けてみると
「…あったかい」
想像していた通り、温かくてとても気持ちが良かった。それから全身を湯船へと沈めると
「……はぁぁぁ。…いい湯加減」
そう言わずには居られないほどの心地よさが全身を包み込んだ。
もくもくと上がり続ける湯気を見ながら何も考えずにぼーっとしていた私だが、気持ちの余裕が出てきた為、今回の任務の失敗点をきちんと反省せねばと思考を巡らせ始めた。
もし同じようなことがもう一度起こった時、果たして自分に何ができるのか。