第14章 秘薬を求めて※
それでももちろん断るなど出来るはずもなく
「…わかり…ました。私はもう大丈夫なので、杏寿郎さんと一緒に行かせてください」
私は、杏寿郎さんの目をじっと見据えそう答えた。
「そうか。ならば準備を済ませ、一度邸に戻ろう」
「はい」
「先程食事をとりに行った際、この家の主人、ひさ殿が鈴音が入れるようにと湯を沸かしてくれると言っていた!恐らくもう入れるだろうから行ってくるといい」
「…え…でも…」
杏寿郎さんの提案を一度は断ろうとした私だが
…杏寿郎さんが拭いてくれたのかな…身体はベタベタする感じはしないけど…ちょっと頭が気持ち悪いかも
自分の手を頭に当ててみると、なんだかじっとりとしているような気がした。記憶をほじくり返してみると、情を交わしていた間、頭部にもたくさん汗をかいていたため恐らくそのせいだろう。
「…それじゃあ、急いで行ってきます」
「うむ!そうするといい!替えの下着はここにある!」
「え!?」
杏寿郎さんは、卓の横に置いてある薄紫色の風呂敷包みをズイと私の方へと差し出してきた。
杏寿郎さんが差し出してきたその風呂敷包みには何処か見覚えがあり、私は受け取りながら僅かに首を傾げてしまう。
「その包みは、宇髄の鴉が持ってきてくれたものだ」
「虹丸?…それじゃあ…もしかして…」
頭に浮かんできたのは、大好きなあの3人。杏寿郎さんは私が誰の姿を思い浮かべているのか、わかっていたようで
「宇髄の鴉が、奥方達が君のことを酷く心配していたと言っていた。後で顔を見せに行ってやるといい」
私が抱えるように持っている風呂敷包みを穏やかな表情を浮かべながらじっと見ていた。雛鶴さんまきをさん須磨さんの気遣いと、杏寿郎さんのその表情に、ほっこりと胸が暖かくなる。
「……はい」
噛み締めるように返事をした私は、"それじゃあ行ってきます"と一言告げ、杏寿郎さんが教えてくれた湯殿がある方へと1人向かった。