第14章 秘薬を求めて※
私の身体を杏寿郎さんに引き渡すために天元さんが立ち止まった直後
「…っ杏寿郎さん…!」
私は天元さんがすぐ側にいることなど少しも気にせず
「鈴音っ!」
天元さんの背中から身を乗り出し、杏寿郎さんの腕へと飛び込んだ。
だがそれが悪かったのだろう。
杏寿郎さんが私を抱き止めてくれたその衝撃で
「…っんぁあ!」
私はとうとう堪え続けていた果てを迎えてしまった。抱き止めるや否や身体をビクビクと痙攣させる私に、杏寿郎さんは一瞬その動きをピタリと止める。
けれどもすぐ我に帰ったようで、片手だけで私を抱えると、炎柱の証である羽織をバサリと外した。それからそれを、私の姿を隠すようにバサリと頭から掛けると
「…何か見たか?」
天元さんに向けそう問いかけた。
「………見てねぇよ」
そう答えた天元さんに
「嘘をつくな。見ただろう」
杏寿郎さんは声を低くしながらそう言った。そんな杏寿郎さんの様子に
「…なら最初から聞くんじゃねぇよ!見たよ!見た見た!だが後ろからだ!そいつの顔は見ちゃいねぇ!…っつうかそんなことより、そいつを早く楽にしてやってくれ」
天元さんは呆れたような、それでも真剣な声色で言った。
「…っそうだな。鈴音が落ち着いたらこちらから連絡する。すまないがそれまではそっとしておいて欲しい」
「わかってる。…煉獄」
「なんだ?」
「……悪かった」
迎えた果ての余韻と、迎えたばかりだというのに瞬く間に押し寄せてくる情欲に耐えながら
「…っ…天元さんは…悪くない…っ…私が…油断…したから…!」
私は杏寿郎さんの首に回す腕の力を強めながら必死で言葉を紡ぐ。するとそれに応えてくれるかのように杏寿郎さんの私を抱く力が強まり
「鈴音がそう言うのであれば俺からいうことは何もない!お前はお前のなすべき事をなせ!」
いつもの快活な声でそう言った。
「…んなもん派手にわかってるっつぅの」
天元さんはそう言うと"連絡待ってるからな"と最後に一言言い残し、その場を去った。