第14章 秘薬を求めて※
「…お前も随分と煉獄に惚れこんだもんだな」
呆れたようにそう言った天元さんは、再び私の身体をくるりと回転させた。すると今度は自身がクルリと反対側を向き
「こっちの方が速く走れる。さっさと乗れ」
私に背を向けしゃがみこんだ。天元さんの背中と密着してしまうことに僅かな戸惑いを感じたものの、これ以上わがままを言うわけにもいかない。
私はゆっくりと一歩踏み出し、下腹部にあまり振動が来ないようゆっくりとその背中に身を預けた。
「……っ…」
温かな人の温もりに思わず声が漏れてしまいそうになるも、ぐっと唇をかみしめそれを耐える。
「…っ止まらず行くぞ!」
半ば叫ぶようにそう言った天元さんの言葉に、私はただ黙って頷き返す他なかった。
それからの記憶は酷く曖昧で
「…っ…ふ…は…っ…」
それでも、度々襲いくる果ての気配をやり過ごすのにただただ必死だった事だけは覚えている。
もう駄目かもしれない
そう思い始めたその時
「見えてきた!屋根の上にとまってるのは…要だ!ってことは煉獄がもういるぞ!」
前方から聞こえてきた天元さんのその言葉に
……やっと…この地獄から解放される…!
私の頭の中はあっという間に杏寿郎さん一色に染まった。そして
「鈴音っ!」
聞こえてきた杏寿郎さんの声に
「…んっ…杏寿郎…さぁん…」
ピンと張っていた緊張の糸が、みるみる内に緩んでいった。明らかに先ほどよりも息が荒くなり
「…ふ…んぅ…」
口から漏れる声が増えた私の様子に
「っ馬鹿野郎!まだ早ぇ!もう少し我慢しろ!」
天元さんは酷く慌てた声色でそう言った。
「…っだって…杏寿郎さ…ん…杏寿郎さん…がぁ…」
「わかった!わかったら!…っ煉獄!」
天元さんが大声でその名を呼んだ直後、熱風がブワリと私の頬を撫でた。天元さんの肩に押し付けるようにしていた顔を上げると
「早くこちらに!」
私を受け止めようと腕を広げている杏寿郎さんの姿がそこにあった。