第3章 未知との出会い、騒音との再会
私には雛鶴さんの、まきをさんの、そして須磨さんの天元さんを愛おし気に見つめるその瞳が、酷く美しいものに見えた。その瞳には”愛情”そして”尊敬”が溢れており、私は今までの人生においてそんな素敵な瞳を見たことがなかった。
そして、天元さんが3人に向ける瞳もまた、愛情に満ち溢れているように見えた。
私の父は、野獣のような、そして最後には蔑むような視線を母に送っていたのに。それは私が”あんな風に見られる位なら、一生男なんて知らなくていい”そう思う程だった。
この4人は…どうしてこんなにもお互いを尊重し、愛せるんだろう。
愛を知らない私には、何ひとつとしてわからない。
「鈴音ちゃん?」
ぼーっと何もない場所を見ていた私の視界に、可愛いらしい青みがかった瞳が飛び込んで来る。
「…っ!すみません!ちょっと考え事をしてしまって!説明…お願いします!」
「はい!それじゃあ説明行きますよぉ。こっちに来てください」
須磨さんはそう言うと、柵の中央のほうに歩いて行った。
「はい」
私も、須磨さんを追いかけ中央へと足を進めた。天元さんは、そんな須磨さんと私を見守るように、少し遅れ着いてくる。
「はいここで止まってください!」
中央よりも少し離れた場所で須磨さんが立ち止まり、私の方を振り返った。
立ち止まった須磨さんの方に注意深く視線を向けると、
「…糸…?」
その奥の空間に、きらきらと白い糸のようなものが張り巡らされていることに気が付く。
「正解です!この糸は特殊な糸で、ある一定の振動を感知すると音が鳴ります」
そう言いながら須磨さんがその糸に向かって手で強めに風を送ると、
ピーン
と弦をはじくような音が鳴った。
…あんまり好みの音とは言えないかな。
そんな訓練とはあまり関係のないことを考えつつも、聴き漏れのないよう須磨さんの説明に耳を傾ける。
「この糸は、余計な動きをするとすぐに音が鳴ってしまいます!逆に、必要最低限の動きをすれば鳴りません。糸が鳴らないように注意を払いながら、ところどころについている鈴を取ることがここで行う訓練の内容です!それじゃあお手本に、私が1度やって見せますね!」
そういって須磨さんは柵の中央に向き直ると、
「では行きます!」
と気合十分に、尚且つ静かに動き始めた。