第14章 秘薬を求めて※
……馬鹿…っ…どうして…我慢できないの…!
情けない
悔しい
恥ずかしい
申し訳ない
私は涙がこぼれ落ちないように目を大きく見開き、下唇をギュッと強く嚙み締めた。ジワリと口に広がる鉄の味と
”鈴音”
耳にこびりついている本物の杏寿郎さんの声が、私のなけなしの理性を保っていてくれた。
「………」
杏寿郎さんの姿をした天元さんはスッと瞳を細めると、私の身を左手で支えながら、右手でごそごそと自身の胸元辺りを探り始めた。それから見覚えのある丸薬を取り出すと
「効果があるかわからねぇがとりあえず飲め」
そう言って、私の口の中にそれを押し込んだ。
口に入ってきた丸薬をガリッと噛み飲み込むと
「……っ…やっぱり…天元さんだ…」
視界に映りこんでいる杏寿郎さんの顔が、天元さんのそれへと徐々に変化していく。
……やっぱり…雛鶴さんまきをさん須磨さんの作ってくれる薬は…凄いな
近くにいなくても、大好きな3人はこうして私を助けてくれる。そのことが鈍色に染まる私の心を僅かに明るくしてくれた。
「やっぱりって…お前、なに言ってんだ?」
天元さんは私の発した言葉が引っかかったのか、相変わらず厳しい顔をしながら、私の正気を確認するように瞳をジッと覗き込んできた。けれども
「その女の想い人はどんな容姿をしている」
天亥様が投げかけてきたその質問に
「…なぜ今その質問に答える必要がある?」
天元さんの視線が再び私から天亥様の方へと移った。すると天亥様は律儀にも誘幻花がどのような花で、私の身体にどのような作用をもたらしているのかを説明し始めた。
その話を黙って聞いている天元さんに支えられている私は
…っ…どうしよう…
悠長に話を聞いている余裕など少しもなかった。
「…っ…天元さん…」
蚊の鳴くような情けない声で天元さんの名を呼ぶと、顔の向きは天亥様のほうに向けたまま、赤紫色の瞳が私の方へと向けられた。