第14章 秘薬を求めて※
気配を探ることも音を聴くこともどちらも出来る状態にない私には、天亥様が何を言っているのかすぐにはわからなかったが
ズパァァァアン!
と、ぶち壊しそうな勢いで開かれた襖の音に、助けが来てくれたことをようやく理解することが出来た。
「…っ…テメェ…そいつに何してやがる!!!」
耳をつんざくような怒声に、普段の私であれば縮あがるほど驚いていたに違いない。
それでも私の鼓膜を揺らすその怒声は
「…っ…天元さぁん…!」
誘幻花の影響で姿は杏寿郎さんに見えてしまっているものの、間違いなく師範である天元さんのものだった。
怒りの感情をむき出しにしている天元さんに反し
「鬼の首は狩れたのか?」
天亥様は私にのしかかった姿勢をそのままに、相も変わらず淡々とした様子を崩さない。
「だから戻って来たんだ!っそんなことはどうでもいい!俺の質問に答えろ!鈴音に何してやがる!」
杏寿郎さんの姿をした天元さんは、一瞬で私と天亥様のところまで移動してきたが、それと同時に天亥様も私の上から退き
「見ての通り。その娘…鈴音というのか。身体は小さく僅かに頼りないが、俺の子を産むのに適任の人材でな」
当たり前のことを言うような口調でそう言った。
「はぁ!?」
杏寿郎さんの姿をした天元さんは、こめかみに見たこともないような深い筋を入れ、人を射殺せそうなほどの鋭い視線を天亥様の方へと向けている。
「そいつはただの弟子だろう?秘薬の調合法以外にもいい土産をやる。代わりにその女を置いていけ」
「っんなことするわけねぇだろくそ野郎!」
未だに寝転がったままの私を起こしてくれようとしたのか、私のうなじに天元さんの手がスッと伸びてきた。杏寿郎さんのそれよりも、少し大きい天元さんのごつごつした手のひらが私のうなじに触れたその時
「…っんぁ!」
助けが来たことで油断してしまったのか、懸命に我慢していたはずの甘い声が口から漏れ出てしまった。