第14章 秘薬を求めて※
それでも悲しいかな、誘幻花の効果に犯されている私の身体は目の前の杏寿郎さんではない人間を求めており
「…そんなこと…っ…ない…」
私の声は、明らかに吐息混じりのそれになっていた。
…っ…離れなきゃ…でも…足を少し動かそうとするだけで…こんな風になっちゃうなんて…
僅かな刺激すら気持ち良さを感じてしまい、油断すると口からあられもない声が漏れでしまいそうで、まともに動くことすら叶わない。けれども動くことが出来ないということはすなわち
「…っ…それ以上…近づいて来ないで…!」
目の前の男に、体を暴かれる事に直結する。杏寿郎さんの姿をしている天亥様は私の腕をパッと掴み
「安心しろ。始めてしまえばそんな風に思う暇すらなくなる。姿形が想い人に見えている。それは即ちお前がそいつと身体を交えるも同じだろう」
そう言いながら
「…っ…嫌ぁ…!」
私の身体を布団に縫い付けた。
いやだ
怖い
心ではそう思っているはずなのに、顔にかかる天亥様の吐息すら甘い刺激に感じられ
早く貫いて
と、私の身体は悲鳴をあげていた。
「…っ…お願い…やめて…」
そんな私の言葉など少しも気にする様子のない天亥様はひとつ、またひとつと私の隊服のボタンを外していく。重い腕を懸命に動かし、その手を止めようとするも、まるで赤子のように簡単にいなされ何の役にも立たない。
のしかかっている身体からなんとか逃れようと足をばたつかせたが、自ら取ったその動作で下腹部が揺れた途端、ブワリと甘やかな刺激が私の脳に広がり
「…っ…!」
それすらも出来なくなってしまう。
こうなってしまった今、私は目の前の杏寿郎さんの姿を偽った天亥様の駒にされる他ない。その事実を理解した途端
……嫌だ…嫌だよ…杏寿郎さん…!
懸命に堪えていた涙が頬を伝い落ちた。
けれどもその時
「……残念。思った以上にお早い帰りだ」
そんな言葉と共にボタンの最後の一つを外そうとしていた天亥様の手がピタリと止まった。