第14章 秘薬を求めて※
…っしまった…前にばっかり気を取られて…壁の方は全然…っ…
そう思ったのを最後に私の意識は瞬く間に途切れてしまった。
”……い”
…なに…まだ眠い…あぁでもなんだろう…身体が…うずうずする…
意識がおぼろげにも関わらず、下半身に異様な疼きを感じた私は思わず膝をすり合わせてしまう。
けれども
「おい」
今度ははっきり聞こえたその声に
「…っ!!!」
私は横たえていた身体を慌てて起こした。けれども
「…っ…あれ…?」
力が上手く入らず、布団に手をついてしまう。
…私の身体…どうしちゃったの…?…ここは…どこだっけ?そもそもどうして私…布団の上にいるの…?
意識も記憶も曖昧で、自分が今どうして布団の上にいるのかもわからない。ふっと気配を感じ、重い顔を動かしそちらへと視線を向けると
「…杏寿郎…さん?」
そこにいたのは杏寿郎さんだった。杏寿郎さんは、私がその名を呼んだことが嬉しかったのか、僅かに口の端を上げ笑ったように見える。
その笑い方に
…杏寿郎さん…あんな笑い方もするんだ
ぼんやりと、そんなことを思った。
杏寿郎さんはゆっくりとした足取りで私に近づいてくると、トンと私の肩を押し、私の身体を布団の上へと戻した。
…私…杏寿郎さんとお酒でも…飲んでたのかな……?
そんな事を思いながら、私の上に覆い被さってくる杏寿郎さんに応えるように逞しい首に腕を回すと
「……従順だな」
杏寿郎さんがボソリとそう呟いた。
その声に
……あれ…?
私はとてつもない違和感を感じた。
近づいてくる杏寿郎さんの口に手のひらを軽く添え
「……杏寿郎さん…?」
再びその名を呼んでみると
「……なんだ?」
杏寿郎さんはその表情を変えないまま答えた。
何が違うかなんて、甘い熱で蕩けた頭でうまく説明することなんて出来ない。それでも
「……っ…違う…!」
目の前にいるのが、杏寿郎さんであって杏寿郎さんでない事を、その声から感じ取ることが出来た。