第14章 秘薬を求めて※
部屋の出入り口の前まで跳躍し、2人から距離を取った私は未だに口に広がる辛さに耐えながら左手で口を覆い隠し
「…随分なことをしてくれますね」
威嚇の意味を込め、右手を日輪刀の柄に伸ばした。けれども
「大した身のこなしだ」
背後にある扉の向こうからこの場にいなかったはずの人物の声が聞こえ
……しまった…
私はギリッと下唇を噛んだ。それでも決して動揺を悟られまいと平静を装い
「…成立した交渉を崩すようなことはしないのではなかったのですか?」
柄に手を添えたまま再度跳躍し、門の女性、妊婦の女性、そして
「そうだ。俺は”お前が嫌がるようなことはしない”と、確かにそう言った」
扉を開き、中に入ってきた天亥様から距離を取った。そんな私の様子を天亥様はしげしげと観察するように見ていた。
……この男…一体何が狙いなの?
「…それではまるで私が今現在嫌がっていないと言っているように聞こえるのですが、残念ながら私は今この状況にとてつもない不快感を覚えています」
「今はな。だがそんな気持ちもあっという間になくなってしまうのが、この里で栽培に成功した誘幻花の力だ」
……そんな植物を自分たちで作り出せるなんて…やっぱり忍って凄い…
我ながらそんなことを考えている場合ではなかろうと思いながらも、心技体全てにおいて優れるその能力に思わず感服してしまう。けれどもそんな私の心の余裕は
「このような状況に陥っても乱れを見せないその精神力。そして我らが作った罠をかわすその身体能力。やはりお前は俺の子を孕むにふさわしい人材だ」
「…っ!!!」
天亥様の口から発せられたその言葉に、一瞬にして奪われてしまった。
かつて雛鶴さんまきをさん須磨さんは、自分たちくノ一は里で”優秀な遺伝子を残すための道具として扱われていた”とそう言って言っていたことがある。それが当たり前だと思っていたのに、天元さんは心の底から自分たちを愛し、大切にしてくれているんだと。
数刻前、この男は”外の女は精神的にも肉体的にも弱いから攫うのをやめた”とそう言っていた。すなわち、外の人間であったとしても、それに該当しない人間であれば構わないとそういうことだ。